無呼吸症候群の重症化リスクは「週末の夜に最大47%高まる」と判明

健康

睡眠時に呼吸が止まってしまう無呼吸症候群には、早期の発見と正しい治療が必要です。

それにもかかわらず、症状が正しく診断されていない可能性があるという、驚くべき研究結果が発表されました。

この研究を行ったのは、オーストラリアのフリンダース大学(Flinders University )の研究チーム。

彼らは7万人以上の睡眠データを解析し、無呼吸症候群の重症度が曜日によって大きく変動することを明らかにしました。

特に注目すべきは、週末の夜に症状が最大47%も悪化するという点です。

この現象は研究チームによって「social apnea(社会的無呼吸)」と名付けられました。

研究成果は2025年8月7日付の『American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine』誌に掲載されています。

目次

  • 無呼吸症候群の診断における「見落とされていた側面」
  • 無呼吸症候群は「週末の夜に悪化しやすい」と判明

無呼吸症候群の診断における「見落とされていた側面」

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)とは、睡眠中に上気道が塞がって呼吸が止まってしまう病気で、日中の強い眠気や集中力の低下、心疾患のリスク増大など、深刻な健康被害をもたらします。

OSAの診断は、通常、病院で一晩の睡眠ポリグラフ検査によって行われます。

この検査では、脳波、酸素濃度、気流、心拍などを記録して診断を下します。

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睡眠中に上気道が塞がって呼吸が止まる閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)/ Credit:Canva

しかし、ここに大きな問題があります。

多くの病院では、この検査が平日の夜に行われることが多く、週末の変動が反映されない可能性が指摘されています。

フリンダース大学の研究チームは、これがOSAの診断に偏りを生んでいる可能性に注目しました。

つまり、「週末にこそ重症化している人」が、平日の検査だけでは見逃されているかもしれないという仮説です。

この仮説を検証するため、研究者たちは23カ国・7万人の参加者から睡眠データを収集しました。

被験者の81%は男性、平均年齢は53歳。

それぞれの睡眠データは自宅環境で平均約500夜にわたって記録され、研究チームはその中から無呼吸の重症度を毎晩算出しました。

この研究では、診断済みかどうかを問わず、臨床の診断基準に基づいた指標で夜ごとの変動を分析し、曜日による違いを検出するという画期的なアプローチがとられました。

そしてこの結果は驚くべきものでした。

無呼吸症候群は「週末の夜に悪化しやすい」と判明

研究の結果、週末、特に土曜日の夜には、OSAの症状が平日と比べて有意に悪化していることが明らかになりました。

たとえば、土曜日の夜には、参加者が中等度~重度OSAになる確率が水曜日と比べて18%増加していたのです。

また、特定の条件下ではその増加幅がさらに大きくなりました。

  • 男性:重症化リスク 21%増
  • 60歳未満:重症化リスク 24%増
  • 週末に45分以上寝坊する人:重症化リスク 47%増
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無呼吸症候群の重症化リスクは週末の夜に最大47%も悪化する / Credit:Canva

このように、週末になるとOSAが悪化する傾向が強まる理由として、研究チームは複数の生活習慣の変化を挙げています。

たとえば、夜更かしをすると睡眠後半に現れるREM(レム)睡眠の割合が増え、この段階では無呼吸が起きやすくなります。

また、週末に寝坊をして睡眠時間が延びると、さらにREM睡眠が増加し、呼吸停止のリスクが高まります。

加えて、飲酒や喫煙といった週末にありがちな習慣も問題です。

これらは気道周囲の筋肉の緊張を低下させ、気道の閉塞を招きやすくします。

さらに、CPAP(鼻から空気を送り込む)機器を使っている人でも、週末は機器の使用を怠る傾向があり、それが無呼吸の悪化を助長する可能性があります。

こうした要因が重なり合うことで、週末にはOSAの症状が一段と深刻化しやすくなると考えられているのです。

つまり、「社会的な行動の乱れ」が「呼吸の乱れ」を引き起こしていると考えられます。

研究チームは、この状態を「social apnea(社会的無呼吸)」と名付けています。

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週末を含めた診断を行うなら、より適切な治療が可能に / Credit:Canva

また、この研究は、季節によるOSAの重症度変化にも着目しています。

データを再解析したところ、夏と冬にOSAが8〜19%重症化する傾向が見られました。

夏は高温により浅い睡眠段階が増え、OSAが悪化しやすくなり、冬は睡眠時間の延長とともにREM睡眠が増えるため、無呼吸イベントが頻発しやすくなると考えられています。

このように、曜日や季節など「日常生活の変動要因」がOSAに大きな影響を与えていることは、従来の固定観念に一石を投じる発見です。

今後は、より精密な多夜間検査の導入や、週末のライフスタイルに合わせた個別治療戦略の検討が求められるでしょう。

たとえば、週末を含めた複数夜の睡眠データを収集する検査体制や、自宅で使用可能なセンサーやウェアラブル機器の活用などが挙げられます。

そして、すでにOSAと診断されている方にとっては、「週末でもCPAP治療を続ける」ことが、自身の健康を守るうえで重要だと分かります。

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参考文献

‘Social apnea’: Common sleep disorder up to 47% more severe on these days
https://newatlas.com/sleep/social-apnea-weekend/

Weekend habits linked to new sleep disorder trend: ‘Social Apnea’
https://www.eurekalert.org/news-releases/1094356

元論文

“Social Apnea”: Obstructive Sleep Apnea is Exacerbated on Weekends
https://doi.org/10.1164/rccm.202505-1184RL

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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