【悪魔の痛みからの解放】尿路を進むマイクロボットが”尿路結石”を溶かして小さくする

マイクロボット

苦痛のあまりのたうち回る」とさえ言われる尿路結石。

この痛みを実際に体験したことがある人なら、その悪夢のような体験を絶対に忘れられないはずです。

カナダのウォータールー大学(University of Waterloo)の研究チームは、この尿路結石を少しでも負担なく解決する方法を目指し、新たな小型ロボットを開発しました。

ゼラチン製の柔らかいフィラメントに、尿素分解酵素を搭載したこのミニロボットは、尿路内部を進んで結石の位置まで移動し、患部で直接的に作用することで、結石の溶解を目指します。

この研究は、2025年7月1日付の『Advanced Healthcare Materials』誌掲載されました。

目次

  • 尿路を進み「尿路結石」を溶かすロボット
  • ロボットが尿路結石の重量を30%減少させることに成功

尿路を進み「尿路結石」を溶かすロボット

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尿路結石 / Credit:Wikipedia Commons

尿路結石は、尿の成分が析出して体内で結晶化し、固まりとなったものです。

これらの結石は尿路の中で移動し、特に尿管という狭い空間にさしかかることで、激烈な痛みを引き起こします。

この痛みは突発的で鋭く、時には吐き気や冷や汗を伴うほど強烈です。

現在の治療法には大きく分けて二つ、結石を手術で取り除く方法と、薬を用いて溶かす方法があります。

しかし、経口で与えられる薬は、標的である結石そのものには届きにくく、血流や代謝の過程で有効成分が希釈されてしまうため、十分な効果を得るには時間がかかるのが現状です。

手術で取り除くという大掛かりな方法もできれば避けたいものです。

そこで登場したのが、薬剤を搭載した「磁気小型ロボット」です。

このロボットは、長さ12mm・幅1mmほどの極小フィラメント型で、ゼラチンとエラストマーの混合材料から作られています。

その柔らかさは、人体内を傷つけずに移動するための工夫でもあります。

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磁石が埋め込まれたマイクロボットが尿路を進む / Credit:Afarin Khabbazian(University of Waterloo)et al., Advanced Healthcare Materials(2025)

そして、ロボットの片端には小さな磁石が埋め込まれており、体外から回転磁場を発生させることで、内部の磁石が回転。

その運動がロボットをくねくねと「泳がせる」ように動かし、狭い尿路の中を前進させることができます。

ロボットの動きは超音波画像によって追跡することができ、腎盂と呼ばれる腎臓の内部の空間まで、正確に誘導することが可能です。

目的地に到達した後は、体表に貼付した磁石パッチにより、ロボットをその場に留めておくことができます。

またロボットの内部には尿素分解酵素が搭載されており、尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解することで尿中のpH値を上昇させ、結石を溶解させます。

溶解して小さくなった結石は尿と共に排出されますが、同じように、最終的に役目を終えたロボットも尿と共に排出されます。

では次に、実験での様子を確認してみましょう。

ロボットが尿路結石の重量を30%減少させることに成功

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磁力でくねくね進むロボット / Credit: University of Waterloo

研究チームは、人間の尿路を模した3Dプリントモデルを作成し、その中に実際の尿酸結石と合成尿を用いて実験を行いました。

このモデルは膀胱から腎盂までの経路を再現しており、リアルな内部構造や尿の流れを模した環境でロボットの性能を確認できるようになっています。

研究チームは、ロボットを尿道から導入し、外部磁気アームによって腎盂部に配置された結石に到達させました。

ロボットはその場に静止させられ、尿素分解酵素が結石周辺に作用するように設定されました。

その結果、尿のpH値は6から7へと上昇し、アルカリ化によって尿酸結石の溶解が促進されました。

実際に計測された結果では、5日間で平均して結石の重量が約30%減少しており、物理的に縮小したことが確認されました。

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マイクロボットが激痛から解放してくれるはず / Credit:Canva

さらに特筆すべきは、酵素の作用が一時的なものではなく、最大で3ヶ月間にわたりpH上昇効果が持続した点です。

これは、ゼラチン素材から酵素が持続的に放出されることによるもので、短期的な効果にとどまらず、長期的な治療アプローチにも適用できる可能性を示しています。

今後は、大型哺乳類を用いた動物実験が予定されており、尿流による影響や腎組織との相互作用、免疫反応といった、より現実に近い条件下での検証が行われます。

その後、成果が得られるなら、いよいよヒトを対象とした臨床試験へと展開される予定です。

この小さなロボットが、将来的にはメスを使わず、経口薬にも頼らず、「あの悪魔の痛み」を予防・対処する新たな医療の選択肢となるかもしれません。

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参考文献

Wiggling magnetic micro-robot goes after kidney stones
https://newatlas.com/medical-devices/micro-robot-kidney-stones/

Soft robots go right to the site of kidney stones
https://uwaterloo.ca/news/soft-robots-go-right-site-kidney-stones

元論文

Kidney Stone Dissolution By Tetherless, Enzyme-Loaded, Soft Magnetic Miniature Robots
https://doi.org/10.1002/adhm.202403423

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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