これぞまさにビギナーズラックです。
初めてスコップを手にした若き考古学者の卵が、人生初めての発掘開始からわずか90分で、紀元9世紀の希少な金製品を掘り当てました。
この驚きの発見は、イギリス北東部ノーサンバーランド州で行われた発掘調査の現場で起きたものです。
一体どのようなお宝を発見したのでしょうか?
目次
- 初めての発掘で金を掘り当てた学生
- 発見地は古代ローマの大動脈沿い
初めての発掘で金を掘り当てた学生

お宝を発見したのは、英ニューカッスル大学(NCL)の考古学学士課程に在籍するヤラ・ソウザ(Yara Souza)さん。
ソウザさんは米フロリダ州オーランド出身で現在はイギリスに留学中、今回が人生初の発掘調査でした。
発掘の舞台となったのは、ノーサンバーランド州レディースデールの遺跡。
ここは2021年に、金属探知機愛好家のアラン・グレイ氏が偶然、持ち手の頭が球状になっている金製の「ヘッドボールピン」を発見したことで注目された場所です。
その後、さらなる調査のために大学と博物館の合同チームが組まれ、2025年7月に発掘が行われました。
ヤラさんは、前年度に体調不良のため、当時参加予定だった別の発掘(バードズウォルドのローマ要塞跡調査)を断念していました。
「去年は参加できなかった分、今年は楽しみにしていました。でも、まさか90分でこんな発見があるなんて」と振り返ります。
発見された金製品は長さ約4センチ、片端に装飾的な突起があり、手のひらに収まるほど小ぶり。
形やデザインは2021年に見つかったヘッドボールピンとほぼ同じですが、今回の方がやや大きめです。
専門家によると、このヘッドボールピンは紀元800〜1000年頃、初期中世に作られたものとみられます。
金は当時、王侯や宗教的指導者などごく限られた高位の人々のみが使用を許された素材であり、装飾や儀式の道具として特別な意味を持っていました。
発見地は古代ローマの大動脈沿い

この2つの金製品が出土したのは、かつて「ディア・ストリート」と呼ばれた古代ローマの主要街道沿いです。
ディア・ストリートは2世紀当時、イギリスのヨークとスコットランドを結び、ローマ帝国最北部への物資輸送の大動脈として機能していました。
ローマ帝国滅亡後も道は使われ続け、現代では国道の一部となっています。
ニューカッスル大学ローマ考古学のジェームズ・ジェラード教授は、この道の歴史的意義について次のように語ります。
「ディア・ストリートはローマ時代以降も高い地位の人々が行き交う幹線道路でした。今回の発見は、その事実を物語っています」
また、2つの類似した金製品が同じ場所で見つかったことから、教授は「意図的に一対として埋められた可能性がある」と指摘しています。
もし儀式や宗教行事で使われた品であれば、何らかの理由で地中に奉納されたのかもしれません。
発見品は今後、英国の「ポータブル・アンティクイティーズ・スキーム(PAS)」を通じて詳細な分析が行われ、最終的にはグレート・ノース・ミュージアム:ハンコックで展示される予定です。
同博物館の発見品連絡官アンドリュー・アゲート氏は、「金属探知機愛好家と考古学者が協力して成果を上げた好例」と評価しています。
この共同作業により、学生たちは発掘技術を学びつつ、地域の歴史解明にも貢献できました。
9世紀に作られた金製品が、現代の学生の手に渡る─。
その瞬間、時代の隔たりは一気に縮まり、歴史が生きていることを私たちに実感させてくれます。
参考文献
Newcastle student strikes gold in first excavation
https://www.ncl.ac.uk/press/articles/latest/2025/08/northumberlandgold/
Archaeology student finds rare ninth-century gold ‘within the first 90 minutes’ of her first excavation
https://www.livescience.com/archaeology/archaeology-student-finds-rare-ninth-century-gold-within-the-first-90-minutes-of-her-first-excavation
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部