ノリのいい音楽を聴くと、思わず肩を揺らしてしまう。
そんな衝動は、人間だけのものではありません。
豪チャールズ・スタート大学(CSU)の研究チームはこのほど、オーストラリアのオウムが少なくとも30種類のダンスの動きを使い分けていることを発見しました。
しかも、そのうち17種類は科学界でも初めて確認された新しい動きです。
研究の詳細は2025年8月6日付で科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されています。
目次
- オウムの「振り付け」を数えてみたら…
- 音楽がなくても踊る、その理由は?
オウムの「振り付け」を数えてみたら…
研究はまず、世界中から集めた“踊るオウム”の動画分析から始まりました。
YouTubeやSNSで見つけた45本の動画(45羽・5種類)を精査し、すでに知られているダンス動作に加え、新たな動きをリスト化。
その結果、合計30種類のダンスが確認され、さらにある映像中の1羽のオウムだけで17種類もの振り付けが確認されました。
しかもそれらの振り付けは、これまで科学的に記録されていない新規のものだったとのことです。

動きは、頭を下げる「ダウンワード」、左右に体を揺らす「サイドステップ」、力強い「ヘッドバンギング」、回転する「半回転」、さらには羽毛をふわっと膨らませる「フラッフ」など、多種多様。
特に「ダウンワード」は半分の個体で見られ、人気ナンバーワンの動きでした。
面白いことに、この“ダンスの系統”は種ごとの血縁の近さとは一致せず、「踊りのクセ」は遺伝だけで決まらないことが示唆されました。
音楽がなくても踊る、その理由は?
チームは次に、オーストラリアのワガワガ動物園で実験を行いました。
キバタン、モモイロインコ、クルマサカオウムの雌雄ペア6羽に対し、①音楽(Aviciiの「The Nights」)、②人間の声だけのポッドキャスト、③無音、という3パターンを20分ずつ試しました。
結果は意外なもので、どの条件でも全ての鳥が踊りを披露。
つまり、音楽があってもなくても、オウムたちは踊るのです。
研究者は、踊りの起源として野生での求愛行動の名残を指摘します。
もともとパートナーを引きつけるためのリズミカルな動きが、飼育下では遊びや自己表現に変化しているのかもしれません。
さらに一部の個体だけ(17種もの未知の振り付けをもつオウム)が見せた「レア動作」は、即興や創造性の表れかもしれません。
オウムは人間と同じく音のリズムに合わせて動ける数少ない動物であり、模倣や創作を楽しむ高度な脳の働きが関わっている可能性があります。
オウムのダンスは自発的で楽しみのための行動である可能性が高く、動物がポジティブな感情状態にあるサインになるかもしれません。
もしそうなら、音楽を流すことは飼育下の鳥たちの生活を豊かにする「環境エンリッチメント」の一つとして活用できるでしょう。
ただし、今回の実験では音楽が踊りを増やす効果は統計的に確認できませんでした。
曲の種類やテンポ、提示のタイミングなどを変えたさらなる研究が必要です。
また、同じ動きを繰り返す「常同行動」と混同しないための見極めも重要です。
参考文献
Dancing cockatoos: research reveals implications for cognitive processes and welfare
https://news.csu.edu.au/latest-news/dancing-cockatoos-research-reveals-implications-for-cognitive-processes-and-welfare
Australian Parrots Perform 30 Dance Moves, With 17 New to Science
https://www.sciencealert.com/australian-parrots-perform-30-dance-moves-with-17-new-to-science
元論文
Dance behaviour in cockatoos: Implications for cognitive processes and welfare
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0328487
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部