慎重さや責任感、細部へのこだわりは、その人の大きな強みです。
しかし、その強みが時として足かせとなり、仕事や意思決定のスピードを遅くしてしまうことがあります。
まさに「考えすぎて動けない」状態です。
米国の心理学者であり、認知行動療法や社会心理学の原則を日常生活に応用する専門家であるアリス・ボイズ博士(Alice Boyes, Ph.D.)は、そんな「オーバーシンカー(考えすぎる人)」や「完璧主義者」がタスクを効率的に終わらせるための5つの実践的なヒントを提示しています。
目次
- タスクをスピードアップさせるには?
- あなたも仕事のスピードアップが可能
タスクをスピードアップさせるには?
この記事は、「10分で終わるはずのタスクを1時間」「2時間のプロジェクトを2週間」というように、過度な熟考や条件の詰め込みで時間を浪費してしまう人に向けたアドバイスです。
ボイズ博士は、意思決定を早めるためには完璧を求めすぎない姿勢と条件のシンプル化が重要だと指摘します。
最初の2つのポイントを見てみましょう。
ポイント1:解決策を「一時的でOK」と考える

多くの人は、「今の決断は最終的なものでなければならない」と無意識に思い込みます。
これが意思決定を遅くする最大の原因の一つです。
ボイズ博士は、今日の選択は“バージョン1”で構わないという考え方を提案しています。
例えば「一生使う家の家具を選ばなければ」と考えると選択は重くなりますが、「とりあえず半年使えるものでいい」と思えば選択肢は一気に広がります。
仕事上のプロジェクトであっても当てはめられます。
Apple社も最初から最新のiPhoneを作れたわけではありません。
初期モデルから1つずつ、いくつものバージョンを作り上げてきました。
以前のバージョンは失敗作ではなく、素晴らしい作品を作るためのプロセスの一部なのです。
この「一時的でOK」という考えは、理想を追いすぎて動けない状態を打破し、まずは前に進むための強力な推進力になります。
ポイント2:「必須条件」を1つ捨てる
意思決定が長引く理由の一つは、条件が多すぎることです。
理想の結果を追い求めるあまり、「これも必要」「あれも譲れない」と要件を積み上げてしまうかもしれません。
そこで博士が推奨するのは、必須条件を一つ削るというアプローチです。
条件を削る基準には3つあります。
まず、摩擦を最も減らす条件を捨てることができます。
次に、重要度が最も低い条件を捨てることもできます。
最後に、長期的には必要だが短期的には不要な条件を捨てることもできます。
たとえば理想の宿泊施設を探すとき、宿泊施設の「海沿い」「朝食付き」「ペット可」「予算内」「プール付き」といった5つの必須条件があり、すべてにマッチする施設を探すのには、何時間もかかるかもしれません。
では、そのうち1つを外すとどうでしょうか。
選択肢がぐっと広がり、検索や検討の時間が大幅に短縮されることでしょう。
あなたも仕事のスピードアップが可能
仕事をスピードアップさせるための残りの3つの要素を考えてみましょう。
ポイント3:作業を遅らせている要素を切り離す

ときには、特定の要素に固執しすぎて全体の進行が止まってしまうことがあります。
ボイズ博士は、自らの経験として、ニュースレターに添えるAI画像を作成する際、その画像に「二人の幼児」と「12本の動物の脚」を含めたいと考えました。
その結果、10回以上プロンプトを変えても「12本の動物の脚」の画像がうまく生成できず、時間だけが浪費され、イライラしました。
しかし、実は、その要素は本質的には必要ありませんでした。
条件を「猫の絵」に変えた途端、2分で完成。
ニュースレターに沿える画像にそこまでこだわる必要はなかったのです。
この経験から、固執している要素が本当に必要か見極め、不要なら思い切って切り離すことが重要だと分かります。
ポイント4:「もっと簡単に進められる」状況を想像する
タスクや決断が重く感じる背景には、心理的な障壁があります。
そこで博士は、「もしこうだったらもっと簡単に進められる」というシナリオを想像し、その条件を部分的に再現することを勧めます。
例えば、次のような条件では、決断が楽になるかもしれません。想像してみてください。
- 結果が事前に分かっている
- 選択肢が少ない
- 他人のために決断する(感情的負担が少ない)
- 必要なお金や時間が少ない決定である(低リスク)
- 緊急性があった(迷う余地が少ない)
こうした「決断が簡単な要素」を想像できると、今の自分を何が阻んでいるのかよく理解できます。
理解できたなら、その「障壁」を回避するよう工夫できます。
ポイント5:「考えすぎ=責任感」と錯覚しない

多くの人は「悩む時間が長い=丁寧で責任感がある」と思い込みがちです。
しかし実際には、考えすぎには大きな機会損失が伴います。
1日に10分だけ考えすぎた場合、年間で60時間以上を失っている計算です。
さらに、考えすぎが習慣化すると、決断の遅いスタイルがデフォルトになってしまいます。
博士は代替行動として、柔軟性を発揮することを推奨します。
そして、柔軟性はオーバーシンカー(考えすぎる人)の強みでもあります。
なぜなら彼らは、生まれつき「複数の選択肢を考える意欲」を持っているからです。
あとは、それを「実行に移す」ことに意識を向けることで、真価を発揮できます。
ここまでで、アリス・ボイズ博士が提案する「仕事をスピードアップする5つのヒント」を考慮しました。
これらは、単に「早く決める」ためではなく、質を保ちながら決断と行動を加速させるための実践的戦略です。
日常の意思決定に取り入れるなら、「動けない完璧主義」から抜け出し、より軽やかに、効率的に物事を進められるようになるでしょう。
参考文献
5 Tips to Speed Up Your Tasks
https://www.psychologytoday.com/us/blog/in-practice/202508/5-tips-to-speed-up-your-tasks
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部