あなたの性格が、将来の高血圧リスクを左右するかもしれない。
そんな驚くべき研究結果が、早稲田大学などの研究チームによって発表されました。
対象となったのは、日本人7,321人。
4年間にわたり追跡調査されたデータを分析した結果、性格の違いが高血圧の発症や持続に大きく関係していることが明らかになったのです。
特に注目すべきは「誠実性」という性格特性が高血圧リスクを下げる一方で、「開放性」という性格がそのリスクを逆に高める可能性があるという点です。
性格は単なる個性ではなく、長期的な健康を左右する“体の中に潜むリスク因子”とも言えるのかもしれません。
研究の詳細は2025年7月24日付で学術誌『BMC Psychology』に掲載されています。
目次
- 性格と高血圧、無関係ではなかった
- 「誠実な人」は血圧も健康、「開放的な人」には意外な盲点?
性格と高血圧、無関係ではなかった
研究チームは今回、日本国内で大規模な健康関連データベースを運用するNTTデータ経営研究所の協力を得て、2019年から2022年までの縦断データを解析しました。
対象となったのは、当初5万人以上いた回答者のうち、4年連続で調査に参加した7,321人。
データは毎年8月から9月にかけてオンラインで収集され、性格評価には心理学で広く用いられる「ビッグファイブ理論」の簡易版であるTIPI-J(Ten-Item Personality Inventory – Japanese)が使われました。
ビッグファイブとは、人間の性格を「誠実性」「協調性」「外向性」「開放性」「神経症傾向」の5つに大きく分類するモデルで、心理学や健康科学の研究で広く活用されている理論です。
具体的には以下の通り。
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誠実性(Conscientiousness)
・計画的で几帳面、責任感が強く、自制心がある傾向を指します。
・高い人は目標に向けて努力し、健康的な生活習慣を守りやすいとされます。 -
協調性(Agreeableness)
・思いやりがあり、他人に優しく、信頼しやすく、対人関係を大切にする傾向を指します。
・高い人は争いを避け、円滑な人間関係を築きやすいです。 -
外向性(Extraversion)
・社交的で活発、エネルギッシュで人との関わりを好む傾向を指します。
・高い人はポジティブな感情を感じやすく、多くの刺激を求める傾向があります。 -
開放性(Openness to Experience)
・新しい経験やアイデア、芸術、冒険などに対して好奇心が強く、柔軟な考え方を持つ傾向を指します。
・高い人は創造性に富み、独創的で、新しい物事に対して開かれています。 -
神経症傾向(Neuroticism)
・ストレスや不安、怒りなどのネガティブな感情を感じやすい傾向を指します。
・高い人は感情が不安定で、落ち込みやすい傾向があります。

また、高血圧については2つのカテゴリが設定されました。
1つ目は「新規発症高血圧」──ベースライン時には正常血圧だった人が、後の年に高血圧と診断されたケース。
2つ目は「持続性高血圧」──2019年時点ですでに高血圧であり、その後も改善されなかったケース。
チームは、年齢や性別、運動習慣、学歴、収入などの人口統計的な要素を統制した上で、それぞれの性格特性が高血圧リスクにどのように関連しているかを調べました。
その結果、最もはっきりとした影響が見られたのが「誠実性」と「開放性」でした。
「誠実な人」は血圧も健康、「開放的な人」には意外な盲点?
分析の結果、誠実性が高い人は、新たに高血圧になるリスクも、もともと高血圧だった人が改善しないリスクも、いずれも有意に低いことがわかりました。
この傾向は、すでに過去の研究でもある程度示唆されてきました。
誠実性の高い人は、計画的に生活を送りやすく、健康的な食事や運動を習慣化しやすいとされます。
また、ストレスに対する情動コントロール能力にも優れているため、心身の負担が少なく、高血圧リスクが下がるのです。
一方、予想外の結果となったのが「開放性」の高さと高血圧の関係です。
開放性とは、新しい経験やアイデアを受け入れる柔軟性や、好奇心、想像力の豊かさなどを反映する性格特性です。
これまでの研究では、開放性の高い人は創造的で心理的にも柔軟であり、ストレスに対しても適応的とされ、むしろ心血管系に良い影響があると考えられてきました。
しかし今回の研究では、開放性が高い人ほど、持続性高血圧のリスクがやや高まるという意外な関連が見られました。
なぜこのような逆の結果が出たのでしょうか?
チームは、開放性が持つ複数の側面──たとえば「感情面の開放性」と「行動面の探索性」──が異なる影響を与えている可能性に言及しています。
感情的に開かれている人はストレスからの回復が早い一方で、探索的で刺激を求める人は生活リズムが不規則になりがちであり、それが慢性的な高血圧につながるのかもしれません。
さらに本研究のデータは、COVID-19パンデミック初期(2020〜2022年)という、心理的に不安定な時期に収集されたものです。
外出制限や社会的孤立の影響により、開放性の持つポジティブな側面が十分に発揮されなかった可能性も指摘されています。

今回の研究は、私たちの「性格」という見えにくい個性が、病気のリスクにもつながっていることを明らかにしました。
特に誠実性のように、健康を守る性格特性を育むことは、薬や治療に頼る前の“第一の予防策”になるかもしれません。
一方で、開放性のように一見ポジティブな性格特性であっても、環境や状況によっては逆に健康を損なう可能性があるという事実は、今後の個別化医療において重要なヒントとなるでしょう。
参考文献
性格で高血圧リスクを予測 —7,300人の調査で判明した性格と高血圧リスクの関係—
https://www.waseda.jp/inst/research/news/81724
元論文
Predicting hypertension through big five personality traits: a four-year longitudinal study in Japan
https://doi.org/10.1186/s40359-025-03130-z
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部