「恋人がいないのは、なんだか恥ずかしい」そう感じたことはありませんか?
SNSでは恋人との写真があふれ、周囲の友人が次々と交際を始める中、自分だけ一人でいると「みっともない」「負けている気がする」と焦りや不安を覚えることがあります。
けれど、実はこうした“プレッシャーからの恋愛願望”こそが、かえって恋愛の成功率を下げてしまう可能性が、最新の心理学研究から明らかになりました。
この研究を行ったのは、カナダ・トロント大学(University of Toronto)のジェフ・マクドナルド(Geoff MacDonald)氏らの研究チームです。研究では、恋愛を求める動機の違いが、その後の交際の成否にどう関わるのかを調べました。
その結果、「楽しそうだから恋愛したい」と感じていた人のほうが、「恋人がいないと恥ずかしい」と思っていた人よりも、半年後に交際に進展する可能性が高いことがわかったのです。
この研究の詳細は、2025年6月付けで科学雑誌『Personality and Social Psychology Bulletin』に掲載されています。
目次
- 恋愛は「したいからする」のか、「しなきゃいけないからする」のか?
- 「焦り」や「不安」からの恋愛は、成功しにくい傾向があった
恋愛は「したいからする」のか、「しなきゃいけないからする」のか?
恋愛はごく個人的な感情に見えますが、実際には社会的な影響を大きく受けています。
たとえば「そろそろ誰かと付き合わないと」「恋人がいないのは恥ずかしい」といった焦りにかられた経験はないでしょうか。恋愛したいという気持ちの裏には、人によってさまざまな理由があるものです。
この「恋愛をしたい理由」の違いが、その後の恋愛の行方に関係しているかもしれない。そんな着想から今回の研究は始まりました。
今回の研究チームは、「なぜ人は恋愛を求めるのか」という問いを出発点に、誰にでも当てはまりそうな動機を分類し、それが将来の恋愛行動や交際の成立にどう関わっているかを検証しました。
この研究で使われたのは、自己決定理論(Self-Determination Theory)という心理学の考え方です。これは、人の行動は「どのような気持ちでそれをやろうとしているか(=動機の質)」によって結果が変わるという理論で、教育や仕事、健康などさまざまな分野の調査で用いられてきました。
調査は2段階で行われました。まず第1段階(ベースライン調査)では、18歳から39歳の独身で恋人がいない成人約4,700人を対象にオンラインでアンケートを実施。
この段階では、「もし今、恋愛をしたいとしたら」という前提のもとで、「なぜ恋愛したいのか?」という動機についていくつかの理由が提示され、それぞれにどの程度当てはまるかを評価してもらいました。
このとき研究チームが用いたのが、「AMRPS」と呼ばれる6つの動機分類です。これは、恋愛を求める動機を内面から湧き出る自発的な気持ちから、外部の期待や不安に基づくものまで幅広く整理しています。
恋愛を求める6つの動機(AMRPSスケール)
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内発的動機:恋愛そのものが楽しいから、誰かと親しく過ごすのが好きだから
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同一化動機:恋愛は自分にとって大切で、人生にとって意味のあることだと感じている
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肯定的イントロジェクション:恋愛している自分は誇らしいと感じる、自信につながる
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否定的イントロジェクション:恋人がいないと恥ずかしい、自分に何か欠けている気がする
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外的動機:親や友人の期待に応えるため、周囲の評価を気にして
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無動機(アモチベーション):なぜ恋愛したいのかわからない、特に意味を感じない
これらは現実に多くの人が持ちうる恋愛の動機を体系的に整理したものです。
そして半年後、同じ参加者に再度アンケートを送り、「現在、恋人がいますか?」「この半年で交際が始まりましたか?」といった項目に答えてもらいました。
つまりこの研究は、今は恋人がいない人たちが、どんな理由で恋愛を望んでいたか、そしてその気持ちが半年後の交際の有無とどう関係していたかを追跡した、縦断的な調査です。
「焦り」や「不安」からの恋愛は、成功しにくい傾向があった
半年後の追跡調査により、研究チームは各動機タイプと、実際に交際関係が始まったかどうかの関係を分析しました。
その結果、「恋人がいないと恥ずかしい」「恋愛経験がないと自分に問題があるように思える」といった否定的イントロジェクション動機を持つ人ほど、半年後に恋人ができている割合が有意に低いことが明らかになりました。
一方で、「恋愛が楽しい」「恋愛は自分の人生にとって意味がある」と感じていた人、つまり内発的動機や同一化動機を持っていた人たちは、交際に至っている割合が比較的高い傾向にあったのです。
興味深いのは、「親や友人の期待に応えるため」といった外的動機を持つ人たちでは、否定的イントロジェクション動機を持つ人ほど交際の成功との明確な関連が見られなかったことです。
研究チームは、こうした外的な動機は行動への意欲としては弱い一方で、強い自己否定感を伴わないため、恋愛の結果にはあまり影響を及ぼさない“中立的”な動機になっているのではないかと考えています。
また研究者を驚かせたのは、恋愛に無関心だった「無動機」の人たちでも、一定の割合で交際に至っていたことです。
これはたとえ恋愛に興味がなく、積極的に相手を求めなかったとしても、構えすぎず自然に関係が始まる可能性は一定割合で起こり得ることを示唆しています。
いずれにせよ、「恋人がいないと恥ずかしい」「恋人がいないと自分に欠陥があるように思える」から恋愛したいという人たちは、他の動機を持つ人より恋人が出来づらいというのは、今回の研究の非常に興味深い発見です。
研究チームは、否定的イントロジェクション動機を持つ人が交際に至りにくい理由について、いくつかの心理的メカニズムを挙げています。
否定的イントロジェクション動機を持つ人は、他人に拒絶されることに対して過敏になりやすく、相手のちょっとした反応にも強く傷ついてしまう傾向があります。そのため、やりとりがぎこちなくなったり、自信のなさが前面に出てしまったりして、関係を自然に育てることが難しくなってしまうのです。
また、恋愛を「自分の価値を証明するための手段」としてしまうと、相手との関係が面接のようになってしまい、相手に過度に気を遣いすぎたり、緊張しすぎて、本来の魅力や自然な親密さを発揮しにくくなってしまうのです。
逆に、内発的な動機を持つ人は、恋愛を楽しみたいという自律的な気持ちから行動するため、相手にも自然体で接しやすく、関係が築きやすいのだと考えられます。
このため恋愛を「すべきこと」や「埋めるべき空白」としてではなく、「人生の一部として楽しみたい」と感じている人たちの方が、実際に関係を築くチャンスを得やすいのかもしれません。
恋人ができない人は恋愛の出発点を見直すべきかも
今回の研究は、「なぜ恋愛したいのか?」という私たちがあまり意識しない問いに、科学的に迫った点で注目されます。
心構えや動機は、重要なものだとは思えるものの、実際半年間で恋人ができる割合に有意に関連していたというのは意外に感じる人も多いでしょう。
この研究の結果を踏まえると、恋愛を上手く成就するには次のようなことが重要と考えられます。
- 恋人を“自分の価値を証明する手段”にしない
恋愛で自分の欠点を埋めようとすると、相手への期待や不安が大きくなりすぎて、自然な関係を築きにくくなります。
恋愛を自分の「欠けている部分を埋める手段」ではなく、自分がすでに持っている日常や人生を、誰かと共有してより豊かにする経験として捉えることが大切です。 - 「なぜ恋愛したいのか?」を一度書き出してみる
今回の研究では、「不安」や「恥ずかしさ」からくる動機は交際成功率を下げる傾向にありました。
自分の気持ちがどこから来ているのか、自分なりに言葉にしてみることで、無意識の焦りに気づくきっかけになるかもしれません。もし「誰かと時間を共有したい」「一緒に何かを楽しみたい」など、肯定的な動機が見えてくれば、それが行動の指針になるでしょう。 - “恋愛しなければならない”というプレッシャーから距離を取る
外的動機(親や友人の期待など)や無動機(特に理由がない)で恋愛を望んでいた人の中にも交際に至った例はありましたが、 いずれも「恋愛は当然するもの」という考えに縛られていない点が共通しています。
“恋愛すること自体が正しい”という価値観から一度距離を取り、肩の力が抜いて過ごすことも恋愛関係を作るためには重要だと研究は示しています。
研究チームは今後の課題として、こうした恋愛動機がどのように育まれるのか、あるいは時間とともにどう変化するのかといった心理的プロセスに注目する必要があると述べています。
また、今回はアンケート調査が中心だったため、婚活アプリと連動した出会いの数など実際の恋愛行動との関係を用いて、今後さらに詳しく分析してみたいとしています。
私たちはつい「恋人が欲しい」と思う気持ちそのものの強さに注目しがちですが、その背後にある「なぜ恋愛したいのか」という動機の質が、案外と恋愛の行方を左右しているのかもしれません。
恋愛の出発点を見直すことが、より自然で健やかな関係を築くための第一歩となるのではないでしょうか。
参考文献
New psychology study: Inner reasons for seeking romance are a top predictor of finding it
New psychology study: Inner reasons for seeking romance are a top predictor of finding it
https://www.psypost.org/new-psychology-study-inner-reasons-for-seeking-romance-are-a-top-predictor-of-finding-it/
元論文
Why Do You Want a Romantic Relationship? Individual Differences in Motives for Romantic Relationship Pursuit
https://doi.org/10.1177/01461672251331699
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部