これまで多くの科学者たちが、「夜間の太陽光発電」を考案・研究してきました。
オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学(UNSW)に所属するニコラス・J・エキンス・ドークス氏ら研究チームもこの分野にチャレンジしています。
彼らは暗視スコープに利用されている材料を使って、赤外線放射を利用した夜間発電機の開発に成功。その結果を報告しました。
現段階では僅かな電力しか生成できませんが、将来さまざまな分野で活躍する可能性を秘めています。
研究の詳細は、2022年5月9日付の科学誌『ACS Photonics』に掲載されました。
目次
- 赤外線を捉えて発電する
- 夜間に僅かな電力を生成!今後の発展に期待
赤外線を捉えて発電する

赤外線は人間の目に見えませんが、全ての物体からその温度に応じた量が放射されています。
この赤外線を利用したものが暗視スコープです。
赤外線センサが赤外線を受信して電気信号に変換。
その情報を可視化に役立てているのです。
そしてUNSWの研究では、赤外線センサに使われている素材「HgCdTe(テルル化カドミウム水銀)」を採用。
HgCdTe自体は既によく知られている素材ですが、これを夜間発電機として応用したのです。

研究チームは、新しく開発した半導体デバイスを「thermoradiative diode(※この記事では’熱放射ダイオード’と表現する)」と呼んでいます。
チームによると、「熱放射ダイオードが、放射される赤外線から電力を生み出す」というのです。
では熱放射ダイオードは、どのように利用され、またどれほどの電力を生み出してくれるのでしょうか?
夜間に僅かな電力を生成!今後の発展に期待

熱放射ダイオードは、太陽光の働きを利用しています。
日中、地表が太陽光で温められると、夜にこのエネルギーが赤外線として宇宙空間に放出されます。
熱放射ダイオードは赤外線の放射から電力を生成できるので、このプロセスに挿入することで、夜でも発電できるのです。
太陽光発電と言えば、太陽光エネルギーが地球に入ってくるときに発電する「ソーラーパネル」が一般的です。
しかし今回開発された熱放射ダイオードは、太陽光エネルギーが地球から出ていくときに発電するものなのです。

そして実験により、この新しいプロセスでの発電が実証されました。
ただし発電量は1平方メートルあたり2.26ミリワットと、ソーラーパネルの約10万分の1でした。
現段階では一晩中発電しても、朝に一杯のコーヒーを沸かすことさえできません。
とはいえチームは、赤外線放射による発電が実証できたこと自体に価値を見いだしています。
「理論的には、ソーラーパネルの10分の1程度の電力を生み出すことが可能」と述べており、今後の進展に期待できるからです。
都市部で夏場に起こる熱帯夜は、日中に吸収された太陽光の放射熱によって起こります。
このことを考えるとかなりのエネルギーが夜間に放射されていることは想像できるので、これを発電に利用できるならば有用な技術になるだろうと期待できます。
もちろん赤外線による熱放射は、熱帯夜に限らずあらゆる温度を持つ物体が行っているものです。
そのため熱放射ダイオードの性能が大きく向上するなら、かなりの電力を引き出せるかもしれません。
この研究が、太陽光発電の分野を越えて、バッテリー不要のテクノロジーを生み出すきっかけになるかもしれないのです。
参考文献
‘Night-time solar’ technology can now deliver power in the dark
https://newsroom.unsw.edu.au/news/science-tech/night-time-solar-technology-can-now-deliver-power-dark?utm_source=reddit&utm_medium=social
New Kind of ‘Solar’ Cell Shows We Can Generate Electricity Even at Night
https://www.sciencealert.com/engineers-measure-the-potential-of-a-new-kind-of-solar-cell-fueled-by-the-night
元論文
Thermoradiative Power Conversion from HgCdTe Photodiodes and Their Current–Voltage Characteristics
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsphotonics.2c00223
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部