ゴリラには雨を嫌う傾向がよく見られます。
体が濡れると体温が奪われやすい、雨の中では行動するのが不便などが理由として挙げられ、多くのゴリラは雨に濡れないようにします。
しかしそんなイメージを覆す動画が今、話題になっているのです。
このほど、豪メルボルンにある動物園で、雨に大はしゃぎする1頭の西ローランドゴリラが撮影されました。
ぐっしょり濡れた草の上でごろんと転がり、水を体にこすりつけて楽しむその姿はまるで子どものよう。
面白いことに、このゴリラは自分の“変わった趣味”を少し恥ずかしく思っているようで、誰にも見られていないと思ったときにだけ遊び始めるそうです。
目次
- 雨嫌いの兄に反して、雨大好きな弟ゴリラ
- 誰も見てないうちにこっそり雨を楽しむ
雨嫌いの兄に反して、雨大好きな弟ゴリラ
これまでインターネット上では「雨が嫌いなゴリラ」の動画が多く拡散されてきました。
濡れた地面に足をつけまいと必死に歩くゴリラ、雨から子どもを守ろうとする母親ゴリラなどなど。
そのユーモラスな姿が人気を呼び、数百万回以上再生された映像もあります。
こうした動画が浸透した結果、「ゴリラ=雨嫌い」というイメージが一般的になっていました。
ところが、それをくつがえすような出来事が、メルボルンにある「ウェリビー・オープンレンジ動物園」で起こったのです。
映像の主役は、25歳のオスゴリラ「ガニエカ(Ganyeka)」。
彼は西ローランドゴリラという種に属し、人間と最も近縁な霊長類のひとつです。
小雨が降るある日、ガニエカはぬれた草の上に寝転がり、仰向けになって背中をすりすり、髪に水をなすりつけながら、楽しそうに過ごしていました。
飼育員のクリスティーナ・スリース氏によると、「つま先を空に向けて丸めていたので、彼が本当に気持ちよく感じていたことがわかります」とのことです。
こちらが実際の動画(※ 視聴の際は音量に技注意ください)。
一方、ガニエカの兄のヤキニはというと、雨が降るや否や真っ先に屋根の下に逃げ込んでいったといいます。
同じ場所で育った兄弟でも、ここまで違うとは驚きです。
多くの動物園では、ゴリラたちの居住スペースに暖房が効いており、雨に慣れることはあまりありません。
そのため飼育下のゴリラは、基本的に濡れることを嫌がる傾向があるといいます。
ですがガニエカにとっては、雨の日は特別な時間。
他のゴリラたちが雨宿りしている間、広い屋外スペースをひとり占めできる“ごほうびタイム”なのです。
誰も見てないうちにこっそり雨を楽しむ
ガニエカとヤキニ、そしてもう1頭のモタバは、同動物園の「独身グループ」として暮らしています。
いずれは別の動物園へ移動し、繁殖のために「お見合い」することが予定されています。
野生では、若いシルバーバック(成長したオスゴリラ)が家族群を率いるために、他のオスと争う必要がありますが、動物園ではその代わりに「マッチング」が行われます。
このとき使われるのが、ゴリラ用の「プロフィール」。
遺伝情報を記録して近親交配を避けるのはもちろんですが、近年では「性格」や「行動傾向」も選考材料になります。
飼育員のローラ・ヒクルトン氏によれば、「遺伝子が理想的でも、性格の不一致でうまくいかないこともある」とのこと。
「お見合い」がうまくいくかどうかは、やはりフィーリングも大切というわけです。

ガニエカは、弟気質でいたずら好きな性格。
兄ヤキニを起こして困らせたり、構造物をドンドン叩いて反応をうかがったり、まるでわんぱくな少年のようです。
それでいて、甘えん坊で繊細、好奇心旺盛な一面もあり、飼育員たちは「ガニエカにいつも翻弄されている」と語ります。
ちなみに、ガニエカは自分の雨好きな性格をやや恥ずかしがっているようで、「誰も見ていない」と思ったときだけ雨遊びをします。
でも、動物園には監視カメラがあることを、彼は知らないのかもしれません。
あ
私たちはしばしば「○○はこういう動物」という固定観念にとらわれがちです。
しかし今回のガニエカの雨遊び動画が示しているのは、「同じ種でも、好みはさまざま」だというシンプルな事実です。
人間と同じように、ゴリラにも個性があります。
雨が嫌いな子もいれば、ガニエカのように雨を愛する子もいるのです。
ガニエカのような存在は、種の多様性を理解する上でもとても重要です。
今後、動物園では「性格」や「好み」も大切にされる時代になるのかもしれません。
参考文献
Adorable Video Proves Not All Gorillas Hate The Rain. It Might Even Win One A Mate
https://www.iflscience.com/adorable-video-proves-not-all-gorillas-hate-the-rain-it-might-even-win-one-a-mate-79949
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部