親の犠牲に感謝しても「親に人生を捧げるべきではない」理由

心理学

あなたの親は、あなたを育てるためにたくさんのものを犠牲にしたかもしれません。

自分の好きな職業でもないのに必死に働き、あなたにより良い未来を与えようと努力してきたことでしょう。

その姿を見てきた子どもたちの多くは、心から親に感謝しているはずです。

しかし、アメリカ・カリフォルニア州の公認心理士として活動するナヒド・ファタヒ氏は、時に親の愛が、子どもの自由を奪ってしまっていることを指摘します。

もし、「親が犠牲を払ってくれたんだから、親が望む人生を送らなければいけない」と感じているならそれは問題です。

彼女はその「負債のような感情」からどうやって解放されるかを教えています。

目次

  • 「親の犠牲に感謝しているから人生を捧げるべき」という考えで苦しむ人たち
  • 「犠牲の負債」から自由になるには?

「親の犠牲に感謝しているから人生を捧げるべき」という考えで苦しむ人たち

「犠牲の負債(sacrifice debt)」という言葉は、ナヒド・ファタヒ氏が自身の臨床経験から生み出した概念です。

これは、子どもが親の犠牲や努力に対して“何かで返さなければならない”という見えないプレッシャーを感じる心理的な状態を指します。

ナヒド氏が臨床の現場で出会った多くのクライアントは、外から見ればとても”成功”しています。

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立派な人でも「自分の人生ではない」と感じる理由 / Credit:Canva

立派な職に就き、周囲に親切で、親との関係も良好に見えます。

しかし彼らの多くが口にするのは、「自分の人生を生きている感じがしない」 「親のためにこの道を選んだけど、本当にこれがしたかったのかわからない」といった言葉なのです。

ある女性は、父親から「お前は俺の夢そのものだ」と言われ続け、医師になりました。

彼女は医療行為そのものに嫌悪感はないものの、彼女自身の意思で選んだ職業という実感が持てません。

また、テクノロジー業界で成功を収めた若い男性は、親が戦争から逃れて命がけで移住してきたことを常に心に刻んでいます。

望まれていた学歴や職を手に入れたのに、朝起きるたびに”心が重い”と感じるようです。

しかし親に相談しても、「あんなに犠牲を払ったのに、なぜ不満なの?」と理解されません。

このように、犠牲の負債は子どもたちのアイデンティティを蝕み、抑圧や無力感を生む原因となっています

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親の犠牲に感謝し、「親が望む人生を送るべき」と感じてしまう / Credit:Canva

特にアジア系、ラテン系、中東系などの集団主義の家庭では、親の期待に応えることが”愛”の証とされやすく、男性には「家族を養え」、女性には「家族の感情面を支えよ」という性別ごとの暗黙の役割も加わり、プレッシャーはさらに強まります。

とはいえ、これを単に「親が悪い」と責めればよいわけではありません。

ファタヒ氏は次のように述べています。

「親たちは愛と強さをもって、想像を絶する苦労をしてきました。

でも、どんなに良い意図があっても、それが無意識に子どもの自由を奪うことがあるのです」

つまり、問題は”意図”ではなく、”構造”にあるのです。

もしかしたらあなたも、同じような「親からの負債」を抱えているかもしれません。

それを手放すには、どうすれば良いでしょうか。

「犠牲の負債」から自由になるには?

どうすればこの「犠牲の負債」から自由になることができるのでしょうか?

まず最初に必要なのは、この負債の存在に気づき、言葉で表現することです。

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自分が「犠牲の負債」を抱えていることを知る / Credit:Canva

両親を愛していたとしても、「親の夢を自分が背負うこと」に対して辛く感じてもいいのです。

両親が諦めたものを尊重しながらも、何が違うことを望んでもいいのです。

そのことを言葉に出してみましょう。

次に大切なのは「もし自分が完全に自由だったら、何を選ぶだろう?」という問いを持つことです。

人生の多くを”誰かの期待に応えること”に費やしてきた人ほど、この問いに答えるのは簡単ではありません。

自分の本音がわからなくなっていることがあります。

そんなときは、「信頼できる友人と話す」「同じ背景の人と語り合う」「専門のセラピストと向き合う」といった方法を試すと良いでしょう。

また自分の思いを日記に綴ることも有効な手段です。

たとえば「親が望んでいた自分」と「本当に自分がなりたい自分」を紙に書き出すことで、心の整理がしやすくなります。

このように「本当の自分の望み」について考えていくことで、徐々に「犠牲の負債」から解放されるようになります。

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親は子に「あなたの道を歩んでいい」と伝えるべき / Credit:Canva

一方で、親にもできることがあります。

もしあなたが親であるなら、ファタヒ氏の次のアドバイスを当てはめることができます。

『あなたは私に人生を捧げる必要なんてない』と言ってあげるのです。

これは、親が子どもに伝えられる最も癒やしのある言葉です。

親の犠牲はコントロールのためではなく、無償の愛の証であったはずです。

親自身がそのことを再認識し、「あなたの道を歩んでいい」と伝えることができれば、親子の関係はより深く、誠実なつながりへと変わっていくでしょう。

子供は親の犠牲に感謝したとしても、親に人生を捧げるべきではありません。

親と子供の両方がそのことを自覚し、本音で語り合うなら、子どもは本当の自分らしさをもって人生を歩んでいけるのです。

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参考文献

You Don’t Owe Your Parents Your Life
https://www.psychologytoday.com/us/blog/multicultural-mental-health/202506/you-dont-owe-your-parents-your-life

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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