もし南極の氷がなくなったら、どんな地形が現れるのでしょうか。
この問いに対し、英国南極調査局(BAS)を中心とした国際研究チームは、長年のデータを駆使し、氷に覆われていない南極の姿を詳細に再現しました。
新たな南極地形図「Bedmap3」を公開したのです。
この地図により、南極大陸の氷床下に広がる山脈や谷、広大な盆地の姿を鮮明に可視化されました。
研究の詳細は、3月10日付の『Scientific Data』誌に掲載されています。
目次
- 南極の氷の下の地形を把握する「Bedmap3」プロジェクト
- 氷を取り除いた南極の「本当の姿」が明らかになる
南極の氷の下の地形を把握する「Bedmap3」プロジェクト
南極の氷床はにわたる積雪と氷の圧縮によって形成されてきました。
特に過去の氷河期と間氷期の変動が影響を与え、現在のような巨大な氷床を作り出しました。
南極の氷床は地球上で最も分厚く、場所によっては厚さが数千メートル以上にも達します。
そのため、氷の下の地形を直接観察することは困難です。

それでも、氷床下の地形を知ることは非常に重要です。
地形によって氷の流れが決まるため、氷床の安定性や融解のメカニズムを理解するために欠かせません。
また、氷に閉ざされた地形には、かつての南極の気候や環境の痕跡が残されています。
さらに、南極の地形は、大陸の移動やプレートの動きの歴史を示す重要な手がかりにもなります。
このような理由から、氷床下の詳細な地図を作成することが求められてきました。
そこで英国南極調査局(BAS)の研究チームは、最新の技術を用いて、新しい南極地図「Bedmap3」を作成することにしました。
Bedmap3はその名前が示す通り、2001年に始まった南極地図を描く3回目の試みです。
彼らは今回、航空機、衛星、船舶、犬ぞりなどあらゆる手段を用いて情報を集めました。
また、地震波探査によって、地震の波の伝わり方を分析し、地下の構造を特定。
さらに、衛星観測データを用いて氷床表面の高さを正確に測定し、それを基に地形を推定しました。
そして、これらのデータを統合し、高精度のグリッドマップとして再構築することで、南極の隠された地形を明らかにしました。
氷を取り除いた南極の「本当の姿」が明らかになる

「Bedmap3」によって、私たちは氷に覆われた南極の真の姿をより明確に知ることができるようになりました。
南極の氷床の下に隠されたガンバーツェフ山脈の姿も明確に示されています。
また、かつて河川が流れていたと推測される深い谷が複数発見されました。
さらに、南極の一部には、海面よりもはるかに低い広大な盆地が広がっていることも確認されました。
では、これらの南極大陸の上にどれだけの氷が存在していたのでしょうか。
まず、南極の氷の総量は、2717万立方キロメートルだと分かりました。
総面積も1363万平方キロメートルと広大です。
南極の氷の平均の厚さは1948メートルであり、特に厚い場所では、氷の厚さが4,000メートルを超えることもあります。
想像を絶するような分厚い氷が南極大陸の地形を覆い隠していたのです。

では、この研究は今後どのように活用されるのでしょうか。
氷床の動きをより正確にモデル化し、将来の海面上昇の影響を予測することが可能になります。
例えば、今回の調査により、南極の氷が大規模に融解すると、海面が最大58メートル上昇すると分かりました。
もしそのようなことが生じるなら、沿岸都市が水没し、気候や海洋循環にも大きな影響を与えるでしょう。
また、南極の地質構造や地殻変動の研究にも役立ちます。
さらに、氷床下の湖や生態系の存在を調査し、新たな生命の発見につながる可能性もあります。
南極の氷床の下には、ヴォストーク湖やウィランス湖などの巨大な淡水湖が存在します。
これらの湖は長年隔絶されており、未知の微生物や生命体が存在している可能性があるため、生命科学の観点からも重要な研究対象とされています。
「Bedmap3」は、南極の過去、現在、未来を紐解く重要な地図となるでしょう。
参考文献
New map of landscape beneath Antarctica unveiled
https://www.bas.ac.uk/media-post/new-map-of-landscape-beneath-antarctica-unveiled/
New map shows Antarctica without its ice
https://newatlas.com/science/new-map-antarctica-without-ice/
元論文
Bedmap3 updated ice bed, surface and thickness gridded datasets for Antarctica
https://doi.org/10.1038/s41597-025-04672-y
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部