ソーシャルメディアは「妄想の増幅器」として機能している

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ソーシャルメディアでは、誰もがさまざまな人とつながることができます。

その中では、現実と妄想の境目が曖昧であるかのようなコメントを見かけることもあるでしょう。

カナダのサイモンフレーザー大学(SFU)の研究チームは、ソーシャルメディアの使用と精神疾患の関係について研究しました。

その結果、ソーシャルメディアが精神疾患、とくに妄想的思考や自己認識の歪みを助長する可能性があることが示されています。

ソーシャルメディアは便利ですが、妄想の増幅器として機能する恐れがあるのです。

研究の詳細は、2025年2月3日付の『BMC Psychiatry』誌で発表されました。

目次

  • ソーシャルメディアが「妄想」に与える影響とは?
  • ソーシャルメディアは妄想を増幅させる

ソーシャルメディアが「妄想」に与える影響とは?

現代社会では、SNSなどのソーシャルメディアの使用が一般的になっています。

世界中で20億人以上がソーシャルメディアを積極的に利用しています。

また2020年には、カナダの成人の94%がソーシャルメディアにおけるアカウントを1つ以上持っていると報告されています。

アメリカでも10代の若者の97%が毎日インターネットを使用しています。

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ソーシャルメディアから強い影響を受ける現代人 / Credit:Canva

しかし、特に若年層では、日々のコミュニケーションがデジタル空間に移行したゆえ、多くの人がオンラインでの自己と現実での自己のギャップを抱えるようになっています。

そしてソーシャルメディアが人々の心理に与える影響については未解明の部分が多く、特に精神疾患との関連性についての研究はまだ発展途上です。

そこで研究者たちは、ソーシャルメディアが精神疾患、特に妄想的傾向のある疾患にどのような影響を与えるかを検証することにしました。

2004年から2022年までに発表された2623件の研究の中から、査読付きの学術誌に掲載され、統計データを含む研究を中心に選定し、その155本の論文を分析したのです。

この研究では、精神疾患ごとのソーシャルメディア使用傾向と、ソーシャルメディアの特性がどのように影響を与えるのか分析しました。

ソーシャルメディアは妄想を増幅させる

分析の結果、ソーシャルメディアの使用と統合失調症や妄想症の症状には関連性があると分かりました。

一部の研究ではソーシャルメディアの利用が症状の悪化に寄与する可能性が示唆されています。

例えば、「他者に監視されている」という被害妄想がソーシャルメディア上で強化されることが報告されています。

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ソーシャルメディアは妄想を増大させると判明 / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

また、自己像の歪みが強い人ほど、ソーシャルメディアの影響を受けやすいことも判明しました。

ナルシシズムや身体醜形障害の患者は、SNSを使って理想化された自己像を構築する傾向があり、それが症状の悪化につながる可能性があります。

実際、いくつかの研究では、身体醜形障害の患者がSNS上で自己イメージを頻繁に操作し、過度なフィルターを使用する傾向があることが報告されています。

これが自己評価の低下や症状の進行と関連している可能性があるのです。

さらに、アルゴリズムが妄想を強化する可能性も指摘されています。

SNSのレコメンド機能によって、ユーザーの関心に基づいた情報が優先的に表示されるため、特定の信念が強化される可能性があります。

ある研究では、陰謀論を信じる傾向がある人がソーシャルメディア上で同様の内容を繰り返し閲覧することで、その傾向が強くなることが指摘されています。

これにより、彼らはいっそう陰謀論や誤情報を信じやすくなるのです。

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ソーシャルメディアによって、「自分が特定の人から愛されている」という妄想が強くなる場合も / Credit:Canva

加えて、エロトマニア(恋愛妄想症)の人も同様の影響を受けます。

エロトマニアとは、現実には存在しない恋愛関係を妄想し、それが確信へと変わる症状を指します。

ソーシャルメディアでは、有名人やインフルエンサーなどへの片思いが過度に強化され、対象者の投稿を自分へのメッセージと誤認するケースが報告されています。

このような妄想が強化されることで、ストーカー行為や精神的負担につながる可能性もあるでしょう。

今回の研究は、ソーシャルメディアの適切な使用方法を考える上で重要な示唆を与えています。

精神的に不安定な人に対するソーシャルメディアのガイドラインを設ける必要があるかもしれません。

世界中で、ソーシャルメディアはもはや避けられないツールとなっています。

だからこそ、その影響を理解し、正しく使うことが大切なのです。

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参考文献

Social media’s disturbing role in “delusion amplification” highlighted in new psychology research
https://www.psypost.org/social-medias-disturbing-role-in-delusion-amplification-highlighted-in-new-psychology-research/

元論文

I tweet, therefore I am: a systematic review on social media use and disorders of the social brain
https://doi.org/10.1186/s12888-025-06528-6

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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