人前での「スピーチ不安」を克服させるVRが登場!

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人前で話すことに不安や緊張を感じてしまうのは、多くの人に共通する悩みでしょう。

学校の発表や仕事のプレゼンテーションで、声が震えたり、頭が真っ白になったりした経験がある人も多いはず。

そんなスピーチ不安を克服する画期的な技術が登場しました。

英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)の研究チームはこのほど、バーチャルリアリティ(VR)を用いたスピーチ練習用のツールを開発。

実験では、このVRで30分間スピーチ練習するだけで、実際に人前でのスピーチ不安が大幅に軽減したことが実証されました。

研究の詳細は2024年12月16日付で学術誌『Frontiers in Virtual Reality』に掲載されています。

目次

  • スピーチが怖くなるのはなぜ?
  • VR訓練の結果、スピーチ不安が大幅に減少!

スピーチが怖くなるのはなぜ?

人前で話すことに不安を感じるのは、決して珍しいことではありません。

実際、「スピーチ恐怖症」は多くの人に見られる一般的な恐怖のひとつとされ、多くの研究で報告されています。

特に学生や社会人にとって、プレゼンテーションやスピーチは避けられない場面です。

しかし調査によると、イギリスの学生の約80%、アメリカの学生の約90%が発表時に不安を感じていることが分かっています。

このスピーチ不安の背景には、心理学的な要因がいくつか関係しています。

主な原因としては、

・「失敗したらどうしよう」というネガティブな自己評価

・人前での発表が少なく、慣れていないことによる経験不足

・聴衆の視線や反応を過度に気にする社会的不安

などが挙げられます。

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Credit: canva

これまでの研究では、不安を克服する方法として「暴露療法(Exposure Therapy, ET)」が有効であることが指摘されていました。

これは実際に人前でのスピーチ練習を重ねることで少しずつ恐怖の対象に慣れさせ、不安を軽減する治療法です。

しかし対面でのセラピーは費用が高く、時間がかかりますし、実際の聴衆を用意するのが難しいという問題があります。

また練習とはいえ、いきなり本物の人の前でスピーチ練習することに抵抗を覚える人も多いでしょう。

そこで新たに注目されているのがVRを活用した暴露療法(VRET)です。

VRならば、安全な環境で何度でもスピーチの練習ができ、コストも抑えられます。

では今回の研究では、どのようなVR実験が行われたのでしょうか?

VR訓練の結果、スピーチ不安が大幅に減少!

ケンブリッジ大学の研究チームは、従来のVR暴露療法をさらに進化させた「過剰曝露療法(Overexposure Therapy)」を開発しました。

チームは13〜15歳の中国人学生29名を対象に、以下のようなVRスピーチ訓練を実施しています。

1:事前準備

・学生たちは1分間の英語の自己紹介を準備し、暗記

・スピーチ前に「4-7-8呼吸法(4秒吸う→7秒止める→8秒吐く)」というリラックス方法を実践

2:VRスピーチ訓練(30分間)

・数名〜50人の仮想観客の前でスピーチ(初歩ステージ)

・100人の仮想観客の前でスピーチ(中間ステージ)

・10,000人の仮想観客がいるスタジアムでスピーチ(最終ステージ)

3:リアル環境での発表

・本物のクラスメイトとスタッフの前でプレゼンを実施

4:事前・事後アンケート

・スピーチ不安・自信・楽しさを測定

ちなみに、VR環境の聴衆はじっとしているわけではなく、頭をかいたり、首を傾げたり、あくびをしたり、遅刻して入ってきたり、あるいはカメラのフラッシュを光らせたりと、現実に近いリアクションを取ります。

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複数名の前でのVRスピーチ練習の様子/ Credit: Chris Macdonald et al., Frontiers in Virtual Reality(2024)

その結果は驚くべきものであり、以下のような変化が確認されています。

1:スピーチ不安の減少

・トレーニング前:65%が「不安を感じる」

・トレーニング後:20%まで減少(45ポイント低下)

2:スピーチ自信の向上

・トレーニング前:31%が「自信がある」

・トレーニング後:79%まで増加(48ポイント上昇)

3:スピーチの楽しさの向上

・トレーニング前:「スピーチが好き」34%

・トレーニング後:86%まで増加(52ポイント上昇)

統計的にも有意な改善が確認され、「過剰曝露療法」はスピーチ不安を軽減し、自信を高める効果があることが証明されたのです。

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1万人の観客の前でのVRスピーチ練習の様子/ Credit: Chris Macdonald et al., Frontiers in Virtual Reality(2024)

本研究の結果は、スピーチ不安に悩む人々にとって大きな希望となります。

特に、このVRトレーニングは無料での提供やスマートフォンでも利用可能な形態を目指しているため、誰でも手軽に試すことが可能になるでしょう。

研究主任のクリス・マクドナルド(Chris Macdonald)氏は「スピーチ不安は誰にでもありますが、克服できるものでもあります。 このプラットフォームを活用し、多くの人が自信を持って話せるようになってほしい」と話しました。

スピーチが苦手な人も、VRを活用すれば、いつか1万人の前で堂々と話せる日が来るかもしれません。

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参考文献

New virtual reality platform helps users overcome public speaking anxiety — and it’s free
https://www.psypost.org/new-virtual-reality-platform-helps-users-overcome-public-speaking-anxiety-and-its-free/

元論文

Improving virtual reality exposure therapy with open access and overexposure: a single 30-minute session of overexposure therapy reduces public speaking anxiety
https://doi.org/10.3389/frvir.2024.1506938

ライター

千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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