自然の映像を見るだけで「痛みの感覚が和らぐ」と判明

健康

「美しい自然の風景を見ると心が落ち着く」と感じることはよくあるでしょう。

しかしそれだけでなく、自然の風景は私たちの痛みまでも和らげてくれるようです。

このほど、オーストリア・ウィーン大学(University of Vienna)らの最新研究で、自然の風景を映した映像を見るだけで痛みの知覚が低下することが示されました。

さらにその効果は主観的な思い込みだけでなく、脳波からも確認できたとのことです。

研究の詳細は2025年3月13日付で科学雑誌『Nature Communications』に掲載されています。

目次

  • 自然の見える病室だと回復が早くなる?
  • 脳スキャンで実証!自然の風景が痛みの処理を変える

自然の見える病室だと回復が早くなる?

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Credit: canva

自然に触れることに「気持ちが落ち着く」「リラックスできる」といった効果があることは、これまでの研究でも示されてきました。

例えば、1984年の研究では、窓から木々が見える病室に入院した患者は、レンガの壁しか見えない患者に比べて、鎮痛剤の使用量が少なく、回復も早かったことが報告されているのです。

このような研究から、自然の風景がストレスを和らげ、痛みを軽減する可能性が指摘されてきました。

しかし、これまでの研究は主観的な報告に頼るものが多く、「本当に脳の活動が変化しているのか?」という科学的な証拠は十分ではありません。

そこで今回の研究では、自然の風景を見ることが脳の痛みの処理にどのような影響を与えるのかをより具体的に明らかにしようとしました。

脳スキャンで実証!自然の風景が痛みの処理を変える

研究チームは健康な成人49人を対象に、小さな電気ショックを与える実験を行いました。

実験中、参加者は3つの異なる映像を見せられています。

1:自然の風景(湖や木々)

2:都市の風景(ビルや道路)

3:オフィスのような屋内環境

そして、それぞれの映像を見ながら電気ショックを受けた際の痛みの強さを主観的に評価してもらい、同時にfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて脳の痛み処理に関わる神経活動を記録しました。

結果として、自然の映像を見ているときに痛みの強さが最も低く感じられることが判明したのです。

さらに脳のスキャンデータから、自然の映像を見たときにだけ、痛みの処理に関連する脳の領域(視床、二次体性感覚野、後部島皮質)の活動が低下していることが確認されました。

この結果は「自然の風景を見ることで脳が痛みを処理する方法が変化する」ことを示しており、単なる気分の問題ではなく、神経レベルでの変化が生じていることを意味します。

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Credit: canva

今回の研究は、痛みの管理に自然の映像を活用できる可能性を示しています。

例えば、慢性的な痛みに苦しむ人々が、VR(仮想現実)技術を用いて自然の風景を見ることで、薬に頼らずに痛みを軽減できるかもしれません。

また、病院や医療施設のデザインに自然を取り入れることで、患者の回復を早める効果が期待されます。

「自然の映像を見るだけで痛みが軽減する」という発見は、私たちの生活の中で簡単に実践できる方法のひとつです。

日常的に自然と触れ合うことができなくても、映像や写真を通じて自然を感じることで、少しでも痛みやストレスを和らげることができるかもしれないのです。

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参考文献

Watching nature scenes can reduce pain, neuroimaging study shows
https://news.exeter.ac.uk/faculty-of-health-and-life-sciences/watching-nature-scenes-can-reduce-pain-new-study-shows/

元論文

Nature exposure induces analgesic effects by acting on nociception-related neural processing
https://doi.org/10.1038/s41467-025-56870-2

ライター

千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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