漫画『テルマエ・ロマエ』では、日本人を指す言葉として「平たい顔族」という呼称が使われていました。
今回、西ヨーロッパのスペインで、新たな「平たい顔族」が発見されたようです。
スペインのカタルーニャ人類古生態・社会進化研究所(IPHES)はこのほど、約140万年前に存在していた新たなヒト族の化石を発掘したと発表しました。
見つかったのは左顔面の一部ですが、そこから予想されていた以上に細長く平たい顔をしていたことが推察されています。
また彼らは西ヨーロッパにたどり着いた最初の人類の可能性があるようです。
研究の詳細は2025年3月12日付で科学雑誌『Nature』に掲載されました。
目次
- 西ヨーロッパにたどり着いた最初のヒト?
- どんなルートでスペインへ移動したのか?
西ヨーロッパにたどり着いた最初のヒト?
私たちの祖先はどのようにしてヨーロッパにたどり着いたのでしょうか?
これまでの研究では、西ヨーロッパに最初に到達したヒト族は、約120万~80万年前のホモ・アンテセッサーであると考えられていました。
しかし今回の発見によって、140万年前にはすでにヒト族がヨーロッパに存在していた可能性が浮上しています。
「ピンク(Pink)」という愛称がつけられたこの化石は、スペイン北部アタプエルカにある洞窟遺跡から発掘されたものです。
見つかったのは、約110万〜140万年前に遡る顔の左側の顎と頬骨の一部でした。
その骨を詳しく調べたところ、予想されていたよりも現代的な顔の特徴が少なく、細長く平たい形をしていることがわかりました。
ホモ・アンテセッサーの顔は現代人に近い特徴を有しているのに対し、新たに見つかったヒトは平たい顔立ちや未発達な鼻を持っており、アフリカやアジアで発見されているホモ・エレクトスの顔により近い形状をしていたとのことです。

このヒト族はまだ完全に新種とは断定されておらず、正式な学名も付いていませんが、研究チームは現時点で「ホモ・アフィニス・エレクトス(Homo affinis erectus)」という名前で分類しています。
アフィニスとは「類似している」という意味であり、総じて「ホモ・エレクトスに類似したヒト族」を意味します。
ちなみに今回見つかったヒト族の個体は、歯の摩耗具合から成人に達していることがわかりましたが、具体的な年齢や性別までは特定できていません。
ホモ・アフィニス・エレクトスは西ヨーロッパにたどり着いた最初の人類である可能性がありますが、では彼らはどうやってスペインまで移動したのでしょうか?
どんなルートでスペインへ移動したのか?
研究者たちによると、そのルートには次の2つが可能性として挙げられるといいます。
1つはアフリカ北部からジブラルタル海峡を渡って、スペインのあるイベリア半島に辿り着くルート。
もう1つはアフリカ北部から中東のレバントを迂回して東ヨーロッパに入り、そこからイベリア半島へと西進するルート。
しかし研究者らは、海に隔てられたジブラルタル海峡を当時の技術で渡り切ることは困難なため、2つ目のルートを辿った可能性が高いと考えています。

また、この時期のヨーロッパの気候は比較的温暖で、食料資源が豊富だった可能性があると研究者たちは見ています。
そのため、ホモ・アフィニス・エレクトスは狩りをしながらヨーロッパを移動し、イベリア半島を最終的な居住地とした可能性があります。
研究者たちは、今後さらに多くの化石を発掘し、この地域のヒト族の歴史をより詳しく解明する予定です。
特にホモ・アフィニス・エレクトスの性別やDNA解析を行うことで、さらに詳細な情報が得られるでしょう。
現代人の祖先がどのように世界に広がっていったのかを理解する上で、非常に重要な知見を与えてくれると期待されます。
参考文献
Face of Overlooked Human Ancestor Could Set Record in Western Europe
https://www.sciencealert.com/face-of-overlooked-human-ancestor-could-set-record-in-western-europe
Human ancestors arrived in Western Europe much earlier than previously thought, fossil face fragments reveal
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/173019
元論文
The earliest human face of Western Europe
https://doi.org/10.1038/s41586-025-08681-0
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部