【何故?】男性が抗生物質を飲むと女性の細菌性膣炎のリスクを減らせると判明

医療

女性の約3分の1が経験するとされ、再発率の高さがしばしば問題となってきた細菌性膣炎(BV)に意外な事実が明らかになりました。

長らく女性側だけを対象とした治療法が一般的でしたが、オーストラリアのモナシュ大学(Monash University)で行われた研究によって「男性パートナーにも抗生物質を服用してもらう」ことで、女性のBVが再発するリスクを大幅に下げられる可能性を示しました。

しかし男性に抗生物質を使うと、なぜ女性の細菌性膣炎に効果があるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年3月6日に五大医学雑誌の一角である『New England Journal of Medicine』にて発表されました。

目次

  • 細菌性膣炎(BV)の真犯人
  • 再発率63%から35%へ、一体何が起こった?

細菌性膣炎(BV)の真犯人

【何故?】男性が抗生物質を飲むと女性の細菌性膣炎のリスクを減らせると判明
【何故?】男性が抗生物質を飲むと女性の細菌性膣炎のリスクを減らせると判明 / 164組の成人異性カップルを対象にパートナーの治療アリと治療ナシの場合を比較しました/Credit:Lenka A. Vodstrcil, Ph.D et al . New England Journal of Medicine (2025)

細菌性膣炎(BV)は、膣内の常在菌バランスが崩れることで起こる病気です。

灰白色の帯下や不快なにおいを伴う症状が代表的で、女性の約3分の1が経験するとされています。

一度治療を行っても半年以内に再発してしまう例が多いことが過去の研究で示されており、特にHIVなど性感染症のリスク増大や、妊娠・出産における合併症などにつながりかねないため、医療現場では長らく大きな課題とされてきました。

従来は「女性のみ」が抗生物質などの治療を受けるのが一般的でしたが、男女間でBVに関連する菌がやり取りされている可能性を示す報告も出ています。

男性は自覚症状がほとんどないことが多いものの、尿道や包皮下などにBV関連菌が潜み、それが女性側の再発原因になっているかもしれないというわけです。

実際、コンドームを適切に使用しているカップルではBVの再発リスクが低減するというデータもあり、“男性側の菌対策”が欠かせないのではないかと考えられてきました。

しかし、男性への治療を実施した過去の取り組みは十分大規模ではなかったため、いまだに確たる結論に至らず、「女性にのみ抗生物質を処方する」治療指針が一般的なままでした。

そこで今回、研究者たちは「男性パートナーにも抗生物質を飲んでもらい、さらに陰茎部分にクリームを塗ってもらう」というアプローチを取り、女性のBV再発率をどこまで減らせるのかを厳密に調べることにしたのです。

再発率63%から35%へ、一体何が起こった?

【何故?】男性が抗生物質を飲むと女性の細菌性膣炎のリスクを減らせると判明
【何故?】男性が抗生物質を飲むと女性の細菌性膣炎のリスクを減らせると判明 / 男性が抗生物質を服用すると女性の細菌性膣炎の再発リスクが大幅に減少しました/Credit:Lenka A. Vodstrcil, Ph.D et al . New England Journal of Medicine (2025)

今回の研究では、まず細菌性膣炎(BV)の女性とその男性パートナーを対象に、オープンラベル(参加者や研究者がどの治療を受けているか隠さない方式)で、ランダム化比較試験(くじ引きのように無作為にグループ分けして効果を比べる方法)が行われました。

研究チームは合計で164組のカップルを登録し、そのうち150組が12週間の追跡調査を完了しました。

2つのグループに分けられたうち、1つ目のグループでは女性が標準的な抗生物質(飲み薬や膣に塗る薬)による治療を受けると同時に、男性にも400 mgのメトロニダゾールを1日2回、7日間服用してもらい、さらに2%クリンダマイシンのクリームを1日2回、陰茎に塗ってもらいました。

陰茎にクリームを塗るという方法は従来あまり行われてこなかったため、男性側の菌を直接減らせる点がユニークです。

女性の治療も通常のBV治療で用いられる薬剤を使うため、現場での実用化への期待感が高まる手法でした。

一方で、もう1つのグループでは女性のみが同様の標準治療を受け、男性には特に治療を行いません。

12週間後、女性のBVの再発率を調べてみると、男性も同時に治療したグループでは35%だったのに対し、男性が治療しなかったグループでは63%にのぼることが判明。

この大きな差が早期の段階で確認されたため、独立したデータ安全モニタリング委員会は「試験を継続しなくても十分に有効性が示された」と判断し、結果的に試験は早期終了となりました。

なお、男性の治療中に出た副作用としては、飲み薬にありがちな吐き気や金属のような味がする、軽い頭痛などが報告されましたが、治療を中断せざるを得ない重大な症状は特に見られませんでした。

女性の治療に加え、男性も一緒に抗生物質を用いることで大幅に再発率を下げられたのは、男性の尿道や陰茎の皮膚に潜むBV関連菌を直接排除し、女性の治療後にパートナーを介して再び感染してしまう“負のループ”を断ち切れたことが大きいと考えられます。

これまで女性のみをターゲットとする治療が多かった中で、「パートナーの男性も同時に」治療を受けるという発想の転換は、長年取り組まれてきたBV対策の中でも画期的な進展といえるでしょう。

研究チームによれば、試験に参加した女性の中には数年にわたりBVの再発がなくなった例もあるとのことです。

適切な服用と陰茎へのクリーム塗布によって、女性の膣内環境を健全に保つだけでなく、男性側に潜む細菌の増殖源をより確実に抑制できた結果とみられます。

ただし、男性本人は自覚症状がほとんどないため「治療に協力してもらう」ことが難しいケースも想定されますし、抗生物質の長期使用による耐性菌リスクも見逃せません。

それでも、今回の成果によってBV再発に悩む女性が男女ともに治療に取り組む選択肢を持てる可能性は大きく広がりました。

今後は、複数のパートナーを持つ場合や男性が治療を拒む場合など、さまざまな状況下での効果検証を行う必要があります。

さらに耐性菌の対策や長期的な有効性についての追跡研究も重要です。

こうした追加調査を通じて、より多くの人が恩恵を受けられる治療戦略となりうるかどうかが判明していくでしょう。

科学的根拠に基づく「男女同時治療」という新しいアプローチは、BVの慢性的な再発を食い止めるうえで大きな一歩となると期待されています。

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元論文

Male-Partner Treatment to Prevent Recurrence of Bacterial Vaginosis
https://doi.org/10.1056/nejmoa2405404

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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