第二次世界大戦中、イギリスはナチスの空襲から主要都市や軍事施設を守るために、一見奇抜とも思える秘策を用いました。
それが「スター・フィッシュ作戦」です。
この作戦は、敵爆撃機を欺くために偽の目標を作り、爆弾を意図的に無価値な場所に誘導するものでした。
しかし、このデコイ作戦の存在は長らく歴史の闇に埋もれ、多くの人々には知られていませんでした。
イギリスのキール大学(Keele University)の研究チームは、スター・フィッシュ作戦で利用されたノース・スタッフォードシャー地方の三つの旧サイトの調査結果を報告しました。
詳細は、2025年2月20日付の『Journal of Conflict Archaeology』誌に掲載されています。
目次
- 炎で爆撃機を騙す「スター・フィッシュ作戦」とは
- 考古学的調査が明かす過酷なデコイ作戦
炎で爆撃機を騙す「スター・フィッシュ作戦」とは
第二次世界大戦中、ナチス空軍は「ブリッツ」と呼ばれる大規模空襲を開始しました。
この空襲では、イギリス各地の都市が激しく爆撃され、多くの市民が命を落としました。
また、製鉄所、工場、飛行場など重要な工業地帯が攻撃を受け、深刻なダメージを負いました。
この事態を受け、イギリス政府は爆弾の標的を欺く方法を模索し始めました。
その結果生まれたのがスター・フィッシュ作戦でした。

この作戦では、都市の近郊に偽の都市・工業地帯を作り出しました。
そして、特殊な燃料を使い、都市での爆撃時に発生するような火の手を再現しました。
さらに、爆撃機のパイロットにここが工場地帯だと思わせるため、特定のパターンのライトを配置しました。
この技術は日夜改良され、最終的には100以上の偽装サイトが作られました。
実際の街と見分けがつかないほど精巧なものもあったといいます。
その結果、ナチスのパイロットたちはその炎を実際の都市や工業地帯だと誤認し、本来の目標から外れた地点に爆弾を投下しました。
この戦略により、いくつかの都市は深刻な被害を回避することができたと考えられています。
考古学的調査が明かす過酷なデコイ作戦

イギリスの歴史学者や考古学者たちは、スター・フィッシュ作戦の遺構を発掘・調査するプロジェクトを進めています。
特にノース・スタッフォードシャー地方では、かつてのデコイサイトの跡地が発見されました。
発掘調査や、最新のドローン技術や地中探査レーダーを用いることで、防爆シェルターや発電装置、地下に埋もれた配線や建築物の痕跡が明らかになりました。
最新の調査では、三つの旧サイトが特に注目されました。
あるサイトでは、爆撃機を欺くために設計された発火装置の残骸が確認されました。
別のサイトでは、爆撃の衝撃を軽減するための特殊なシェルターが発見されました。
この構造物は、デコイサイトが爆撃の標的になった際、作戦の継続を可能にするための防御策であったと考えられています。

これらは、当時の技術がいかに高度であったかを示す貴重な証拠となっています。
また当時は、自動化や遠隔制御技術が導入されていなかったため、敵の爆撃中にデコイシステムを作動させて監視する作業員が必要でした。
防爆シェルターはそれら勇敢な作業員を守るのに役立ったと考えられます。
このように、スター・フィッシュ作戦は、戦時中のデコイ技術の極致とも言えるものでした。
現在、考古学者たちの調査によって、この作戦の詳細が次々と明らかになっています。
歴史教育において、スター・フィッシュの炎はこれからも燃え続けることでしょう。
参考文献
Starfish sites: The secret war effort of British aerial bombing decoys
https://phys.org/news/2025-02-starfish-sites-secret-war-effort.html
元論文
Multi-disciplinary site investigations of WW2 allied aerial bombing decoy sites in North Staffordshire, UK
https://doi.org/10.1080/15740773.2025.2464568
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部