「見られてる方が頑張れる」SNSのモチベ維持に隠れる”ホーソン効果”

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「あなたは誰かに見られていると感じたとき、普段と行動を変えますか?」

実は、私たちの行動は観察されることで大きく変わることが心理学的に証明されています。

この現象は「ホーソン効果(Hawthorne Effect)」と呼ばれ、1920年代から30年代にかけて行われた一連の実験によって発見されました。

ホーソン効果とは、「人は自分が観察されていると認識すると、通常よりも努力したり、成果を上げたりする傾向がある」という心理現象です。

この効果は、心理学や社会学だけでなく、企業の生産性向上や教育現場、さらにはスポーツ科学など多くの分野で応用されています。

では、このホーソン効果はどのように発見されたのでしょうか?

目次

  • 監視されると行動が変わる?ホーソン実験が示した驚きの事実
  • 日常生活にも影響?ホーソン効果の活用と落とし穴

監視されると行動が変わる?ホーソン実験が示した驚きの事実

1925年頃のホーソン工場の空撮写真/Credit:Wikimedia Commons

ホーソン効果の名前の由来は、1924年から1932年にかけてアメリカのウェスタン・エレクトリック社の工場(ホーソン工場)で行われた一連の研究からきています。

当初、この実験は「職場環境の変化が生産性にどのような影響を与えるか」を調べるために行われました。

例えば、工場の照明を明るさを変更したり、工場内の環境を変えることで作業効率にどんな影響が生じるか観察したのです。

ところが、意外なことに、照明を明るくしても暗くしても生産性は向上するという結果が得られました。

1926年の照明研究のデータ。照明レベルと生産性には有意な関係が見られなかった。/Credit:Harvard Business School,Baker Library

研究者たちはその原因を探るために、他の要素を調査しました。その結果、作業環境の物理的な環境変化よりも、「実験の対象にされているという意識」が作業員の生産性に影響しているとわかってきたのです。

作業員たちは、自分たちが研究の対象として注目されていると認識することで、普段以上に仕事に精を出すようになっていたのです。

このように、環境の変化よりも、「注目されている」という意識が生産性の変化を引き起こしたというのが、ホーソン効果の根本的なメカニズムです。

この発見をきっかけに、「人は誰かに見られていると認識すると、意識的または無意識的に良い方向に行動を変える」ことが心理学的な現象として認知されるようになりました。

日常生活にも影響?ホーソン効果の活用と落とし穴

このホーソン効果は、私たちの日常生活でも広く影響を与えています。

例えば、オフィスでは上司が近くにいると、普段よりも仕事に集中しやすくなることがあります。また、監視カメラや評価システムがある職場では、従業員の生産性が向上するケースも多く報告されています。

スポーツの場面でも、トレーナーや仲間が見ているとパフォーマンスが向上しやすい傾向があります。一人でトレーニングしているときよりも、誰かに見られていると自分を奮い立たせ、より良い成果を出そうとするのです。

練習よりも本番の方が高いパフォーマンスが出しやすいと感じる人は、スポーツや音楽、演劇の世界でも多いでしょう。

また、教育の現場でも同じようなことが起こります。授業参観があると生徒の集中力が高まり、より積極的に授業に参加するようになる場合があります。

Credit:教育同人社

このためテレワークの業務より、オフィスで仕事しているときの方が集中できると感じる人がいるのも、この効果が関係している可能性があります。

さらに、SNSの影響もホーソン効果と関連していると考えられます。

SNS上で「いいね」やコメントをもらうことで、行動を維持しやすくなるのはホーソン効果が関係しています。例えば、運動やダイエットを継続するために日々の成果を投稿し、それに対する反応を得ることでモチベーションを保つ人も少なくありません。

監視というと印象が悪いですが、自分が観察されているという事実は頑張りを見てもらっているとも言えます。そのため、本人が見られているということに対してどういう印象を持っているかも重要な要素になるでしょう。

そのためホーソン効果は、別に万能な効果というわけでもありません。

この効果は一時的なものである可能性が指摘されていて、最初のうちは監視されていることで成果が上がるものの、次第にその状況に慣れてしまうと、効果が薄れていくことがあるのです。

また、性格の影響も大きいと考えられています。監視されることがプレッシャーになり、逆にパフォーマンスを低下させてしまう人もいるでしょう。

実際、心理学の研究では、神経症傾向の高い人は監視されるとストレスを感じやすく、結果としてミスが増えたり、本来の実力を発揮できなくなることが示されています。一方で、外向的な性格の人は監視がむしろモチベーションとなり、より高いパフォーマンスを発揮しやすいとも言われています。

例えば、大勢の前でプレゼンを行う場面を想像してみてください。内向的な人は視線を意識しすぎて緊張し、言葉が詰まってしまうことがあります。しかし、外向的な人は観客の反応をエネルギーに変え、自信を持って話せることが多いのです。

このように、監視されることがプラスに働くかマイナスに働くかは、その人の性格特性によるところが大きいのです。

Credit:canva

他にも研究の多くが、ホーソン効果とそれ以外の要因を完全に区別できていないという問題もあります。

例えば、最初のホーソン工場を見た場合、研究で監視されていることで、上司も頭ごなしに怒鳴ったりしづらくなり、労働者が働きやすくなったためモチベが上がったという可能性も考えることができます。

授業参観の場合も、保護者がいるために先生がいつもより優しいなどの要因の方が大きかったりするかもしれません。

こうした要因は完全に区別するのは難しいのです。

誰かに見られるだけで良い方向に変化する、私たちの行動

とはいえ、誰かに見られていると私たちの意識が普段と変わるというのは、実感として理解できる要因です。

ホーソン効果は、「人は見られていると感じると行動を変える」という心理現象を確かに示しています。仕事や学習、スポーツ、SNSなど、さまざまな場面でこの効果は影響を与えています。

ただし、この効果は永続的ではなく、プレッシャーが逆効果になることもあるため、職場などで活用しようとする場合には注意が必要です。

私たちがより良いパフォーマンスを発揮するためには、「適度な観察」と「内発的なモチベーションの向上」が鍵になるのかもしれません。

あなたは「誰かに見られている」と感じると、普段より頑張れるタイプですか? それともプレッシャーで逆に萎縮してしまうタイプでしょうか?

そんな自分の特性も考慮すると、自分にとって仕事しやすい環境を見つけられるかもしれません。

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参考文献

The “Hawthorne Effect”
https://www.library.hbs.edu/hc/hawthorne/09.html
How the Hawthorne Effect Works
" target="_blank" rel="noopener">https://www.verywellmind.com/hawthorne-effect-2795234

元論文

The Hawthorne Effect: a randomised, controlled trial
https://doi.org/10.1186/1471-2288-7-30

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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