南米チリの最南端パタゴニア地方で、恐竜と同じ時代を生きた小さな哺乳類の化石がチリ大学(Universidad de Chile)により発見されました。
その名は「ユエテリウム・プレッサー(Yeutherium pressor)」。
体重はわずか30〜40グラムと、現代のネズミほどのサイズで、約7400万年前の白亜紀後期に暮らしていました。
今回の発見は、南半球における中生代哺乳類の進化の謎を解く重要な手がかりになると考えられています。
研究の詳細は2025年8月6日付で科学雑誌『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』に掲載されました。
目次
- 恐竜時代の南端に暮らした「小さな哺乳類」
- 独自に進化した「噛み砕きの歯」
恐竜時代の南端に暮らした「小さな哺乳類」
化石が見つかったのは、チリ南部マガジャネス州にあるリオ・デ・ラス・チナス渓谷。
この地域は白亜紀後期の地層「Dorotea層」が露出しており、当時はゴンドワナ大陸の一部でした。
(※ ゴンドワナ大陸は、現在のアフリカ、南アメリカ、インド亜大陸、南極、オーストラリア、アラビア半島、マダガスカル島を含んでいた巨大な大陸)

発見された化石は、上顎の一部に臼歯1本と、ほかの臼歯の歯冠や歯根を含む小さな骨片です。
この歯の形態から、研究チームはこの動物がレイギテリイダエ(Reigitheriidae)という中生代哺乳類の一群に属すると判断しました。
これまでこの科は、アルゼンチン北パタゴニアで見つかった「Reigitherium」1属1種しか知られておらず、今回の発見が第2の種となります。
歯の表面にはエナメルの細かなギザギザや、噛み砕くのに適した縁帯(シンギュラム)が発達していました。
これらの特徴は、硬い種子や繊維質の植物を食べていた可能性を示しています。
また、骨格や分類学的位置から、現生のカモノハシのように卵を産む、あるいはカンガルーやフクロネズミのように育児嚢(いくじのう)で子を育てていた可能性も指摘されています。
独自に進化した「噛み砕きの歯」

チームは、この新種の系統的位置を明らかにするため、最先端技術を駆使した系統解析を実施。
その結果、ユエテリウム・プレッサーはReigitheriumと姉妹群を成し、両者がReigitheriidae科を構成することが確認されました。
興味深いのは、この科が持つ「噛み砕きに適応した歯」の特徴です。
類似の咀嚼能力は、南米の別の絶滅哺乳類グループであるMesungulatidae(メスングラタ科)にも見られますが、解析結果から、この適応は両者で独立して進化したことが示唆されました。
つまり、異なる系統の哺乳類が、同じように硬い食物資源に適応して歯を進化させた「収斂進化」の例なのです。
この発見は、白亜紀後期の南半球における哺乳類の生態的多様性を示すものであり、ゴンドワナ大陸時代の生物進化史を再構築するうえで欠かせない資料となります。
ユエテリウム・プレッサーは、恐竜たちと同じ地球で暮らし、約6600万年前の白亜紀末の大量絶滅とともに姿を消しました。
しかし、その小さな顎の化石は、恐竜時代の南の果てに存在した哺乳類の進化の物語を7400万年の時を超えて私たちに語りかけています。
参考文献
Scientists find 74-million-year-old mammal fossil in Chile
https://www.rte.ie/news/newslens/2025/0812/1528042-chile-fossil/
元論文
A subantarctic reigitheriid and the evolution of crushing teeth in these enigmatic Mesozoic mammals
https://doi.org/10.1098/rspb.2025.1056
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部