6000年前の「チューイングガム」を発見!男女で噛むガムが違っていた

現代の私たちがストレス発散やリフレッシュのためにチューイングガムを噛むように、昔の人々も、手作りの「ガム」を口に入れて噛んでいました。

そして今回、デンマーク・コペンハーゲン大学(UC)の最新研究で、約6000年前に人類が噛んでいたチューイングガムが新たに発見されました。

さらに、噛まれたガムに残されたDNA解析から、“誰がどんなガムを噛んでいたのか”という新たな社会の一面までもが見えてきたようです。

研究の詳細は2025年10月15日付で科学雑誌『Proceedings of the Royal Society B』に掲載されています。

目次

  • チューイングガムの正体は「白樺タール」
  • 男女で噛むガムの種類が違っていた?

チューイングガムの正体は「白樺タール」

今回の発見は、ヨーロッパ・アルプス地方の新石器時代遺跡から出土した30点の「白樺タール(カバノキ樹皮タール)」に対する最新の有機化学分析と古代DNA解析に基づいています。

白樺タールは、樹皮を乾留して作る粘着性のある黒い物質で、石器の柄付けや土器の修理、さらには装飾品や薬用、そして作業中に噛むための「ガム」として噛むといった、実に多様な用途に使われていました。

特に今回調査された12点のタール片には、はっきりと「歯型」が残されており、人が噛んだことが物理的にも確認されています。

【こちらはアルプス周辺で発見されたガムの画像

なぜ人類はタールを噛んだのでしょうか?

一つには、タールに天然の抗菌成分が含まれていることから、口内の健康や歯磨き代わり、あるいは薬用として噛まれていた可能性が挙げられます。

また、冷えて固くなったタールを噛むことで柔らかくし、接着剤として使いやすくする目的もあったと考えられます。

ただし、唾液が混じると接着力が一時的に落ちるため、実際に接着に使う前には再加熱が必要だったようです。

化学分析の結果、ほとんどのサンプルから白樺タール由来の有機化合物が検出され、一部からは松脂(マツ科樹脂)が混合されていることもわかりました。

これは接着剤としての性能を高めるため、古代人が工夫していた証拠です。

さらに驚くべきは、これらのガム片から“噛んだ人の口腔内マイクロバイオーム(口内細菌群)”や、“食事に由来する植物や動物のDNA”までもが良好な状態で保存されていたことです。

例えば、アマ(亜麻)、エンドウマメ、ケシ、ハシバミ、オオムギ、コムギなど、多様な栽培植物のDNAが発見され、当時の人々が何を食べ、どんなものを生活に取り入れていたのかが直接分かる“タイムカプセル”になっていました。

男女で噛むガムの種類が違っていた?

本研究のハイライトは、ガム片に残った古代人のDNAを解析したことで、「誰が何の目的で噛んだのか」というジェンダーや社会的役割の違いまでが浮かび上がった点です。

30点中19点のタールからはヒトのDNAが良好に検出され、そのうち16点で性別判定にも成功。

特に「ガムとして噛まれたタール片」では、男性DNAと女性DNAの両方が見つかり、中には複数人で噛まれた痕跡が残るものもありました。

さらに興味深いのは、用途ごとに噛んだ人の性別が偏っていたことです。

石器の柄付け用タール(接着剤)からは、主に男性のDNAが検出
土器の修理用タールからは、女性のDNAが主に検出

つまり、道具づくりや狩猟に関わる作業には男性が、家庭での調理や修理などには女性が関わっていた可能性が示唆されます。

ただし、サンプル数はまだ限られているため、あくまで“当時の一端”ではありますが、考古学的な性別役割分担説に直接的な証拠が加わった形です。

また、ガムからは当時の食事だけでなく、矢じりなどから検出されたイノシシや魚のDNAも見つかっています。

これは石器が狩猟や漁労に使われていた証拠でもあり、単なる生活用品としての役割だけでなく、社会全体の営みの中でガムやタールが重要な位置を占めていたことがうかがえます。

ガム片に豊富に残る口腔内細菌の分析からは、現代人の口腔マイクロバイオームと非常に近い多様性が見られ、口内環境や健康状態の追跡、さらには感染症の歴史など、今後さらなる知見が期待されています。

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参考文献

6,000-Year-Old Chewing Gum Reveals Clues on Neolithic Gender Roles
https://www.sciencealert.com/6000-year-old-chewing-gum-reveals-clues-on-neolithic-gender-roles

元論文

Ancient DNA and biomarkers from artefacts: insights into technology and cultural practices in Neolithic Europe
https://doi.org/10.1098/rspb.2025.0092

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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