SNS上では最近、美しくて綺麗だけれど、何となく違和感を覚える画像がよく見かけられるようになりました。
その正体が、実はAIによって生成された「偽物の顔」だったということが少なくありません。
今やAIは、人間と見分けがつかないほどリアルな顔画像を次々と生み出し、私たちの目を簡単に欺いています。
この現象は「AIハイパーリアリズム」と呼ばれ、SNSの偽アカウントやなりすまし、デジタル詐欺など、さまざまな社会問題を引き起こす危険性もあります。
では、そんな“完璧すぎる偽物”を見破る方法はあるのでしょうか。
英レディング大学(University of Reading)の最新研究によれば、そのカギはたった「5分間のトレーニング」にあるようです。
研究の詳細は2025年11月12日付で学術誌『Royal Society Open Science』に掲載されています。
目次
- 「スーパー・レコグナイザー」でも騙される?最新AIの驚異
- 5分間の「トレーニング」で識別力が劇的アップ
「スーパー・レコグナイザー」でも騙される?最新AIの驚異
研究チームは、顔認識力が通常の人々よりも高いことで知られる「スーパー・レコグナイザー(SR)」と一般の人々を対象に、AI生成顔(StyleGAN3という最新AIで作成)と本物の顔の見分けテストを実施しました。
結果は意外なものでした。
トレーニングを受けていない状態では、SRでさえも正答率は41%と偶然よりも低く、一般の人々はわずか31%。
目を閉じて“勘”で答えた場合(偶然)は50%であることを考えると、むしろAI顔を本物と誤認していることが分かります。
【テストで使用された画像がこちら。上二段はAI生成で、下二段は本物の画像です】
これはAIが作る顔があまりにも「平均的で親しみやすい」特徴を持つため、人間の脳が“本物らしさ”を強く感じてしまう現象です。
しかも今回のAI(StyleGAN3)は従来の技術よりもさらにリアルで、人間が見抜くのが難しくなっています。この「AIハイパーリアリズム」は、今後ますます深刻な社会課題となる可能性があると指摘されています。
5分間の「トレーニング」で識別力が劇的アップ
そんな中、チームは「救世主」とも呼べるシンプルな解決策も発見しました。
それが「わずか5分間のトレーニング」です。
方法はシンプルで、AI顔に特有の不自然な特徴、たとえば「髪の毛の流れが不自然」「歯の本数が合わない」など、AIが苦手とするレンダリングミスの具体例をいくつか学び、その後に短い練習問題とフィードバックを繰り返すだけ。
この簡単なトレーニングを受けた後、スーパー・レコグナイザーは正答率64%、一般の人でも51%までアップしました。
特にSRは明らかに見抜く力が高くなり、もともと一般の人よりも顔全体の知覚能力が優れていることも再確認されました。
興味深いのは、トレーニング効果は「2択でどちらが偽物か」を選ばせるタスクでも再現され、SRと一般群の両方で感度が大きく向上した点です。
研究者らは「この5分間トレーニングは、顔認識のプロだけでなく一般の人にも有効」とし、デジタル犯罪対策や本人確認など現実社会への応用も期待できると述べています。
この研究が示したのは「人間の目はAIに完全にだまされてしまう現実」と、しかし「正しい知識と少しの訓練で驚くほど識別力が向上するという希望」です。
今後AIの進化によって、合成顔の不自然さはさらに減っていくかもしれませんが、人間側も学習とトレーニングで対抗できる、そんな“知恵比べ”の時代が始まろうとしています。
参考文献
Five minutes of training boosts ability to spot AI-generated fake faces
https://techxplore.com/news/2025-11-minutes-people-fake-ai.html
元論文
Training human super-recognizers’ detection and discrimination of AI-generated faces
https://doi.org/10.1098/rsos.250921
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
