3300年前の古代エジプトの笛を発見、「警官」と同じ使い方だった可能性

「ピピッ!」と鳴る笛の音。

今日では警官の持ち物としてすっかりお馴染みですが、実は3300年前の古代エジプトにも、同じような役割を担った笛が存在していた可能性が示されました。

豪グリフィス大学(Griffith University)の最新研究で、ツタンカーメン王の父が築いた首都アマルナで発見された牛の骨製の笛は、王家の墓の建設現場で「警官」のような人々が使っていた可能性が高いというのです。

研究の詳細は2025年9月1日付で科学雑誌『International Journal of Osteoarchaeology』に掲載されています。

目次

  • 牛の骨から生まれた「古代エジプトの笛」とは?
  • 古代エジプトの「警官」は何を守っていたのか?

牛の骨から生まれた「古代エジプトの笛」とは?

今回の発見は、エジプト中部に位置する古代都市アケトアテン(現アマルナ)の「ストーン・ビレッジ」と呼ばれる一画で見つかった、小さな骨の遺物に端を発します。

この都市は紀元前14世紀末、ファラオ・アクエンアテン(ツタンカーメン王の父)が建設したもので、短い間だけ首都として栄えました。

発掘された骨は、牛の蹄(ひづめ)の部分を素材に作られており、全長わずか数センチ。

手のひらにすっぽり収まるサイズで、中央に丸い穴がひとつ空けられています。

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研究チームの最新調査によると、この骨は単なる廃材ではなく、実際に「笛」として加工されたことが形状や磨耗からわかりました。

チームは同じ部位の新しい牛の骨を使ってレプリカを作り、実験を行いました。

その結果、骨の端の自然なカーブが唇を当てるのにちょうど良く、穴に息を吹きかけるだけで澄んだ音が出ることが判明。

まさに現代のホイッスルと同じような仕組みで作られていたのです。

さらに重要なのは、古代エジプトの遺跡から「明確な骨製笛」が見つかったのはこれが初めてであり、その用途を裏付ける証拠もあったことです。

笛が出土したのは、村への出入りを管理していたと考えられるチェックポイント的な小屋の内部でした。

これは偶然ではありませんでした。

古代エジプトの「警官」は何を守っていたのか?

アマルナのストーン・ビレッジや、近くのワークマンズ・ビレッジには、王家の墓建設に関わる労働者が暮らしていました。

これらの村では、建設現場や重要な区画への出入りを厳しく管理する必要がありました。

笛が見つかった建物は、まさに人や物の出入りをチェックするための「関所」だったと考えられています。

実際、当時のアマルナでは「メジャイ」と呼ばれる半遊牧民出身のエリート警備隊が、都市や墓の警備にあたっていた記録が残っています。

彼らは現代で言うところの警察官のような役割を果たし、出入りの管理や秩序維持のためにさまざまな道具を使っていました。

今回の骨製笛は、そうした警備担当者が注意を促したり、異常を知らせたりするために使用していたと考えられます。

さらに証拠として、アマルナの当時の警備役の墓の壁画には、警備役が村の入口で見張りをしていたり、不法侵入者を捕らえている場面が描かれています。

こうした背景からも、今回の笛は警備の現場で活躍した「古代の警官ホイッスル」だった可能性が高いのです。

骨製の笛という道具自体は、ヨーロッパの石器時代など世界各地で見つかっていますが、古代エジプトにおいては極めて珍しい存在です。

今回の発見は、これまでファラオや王族の墓・モニュメントに偏っていた古代エジプト研究の視点を、「市井の人々の暮らし」に広げるものでもあります。

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参考文献

3,300-year-old ancient Egyptian whistle was likely used by police officer tasked with guarding the ‘sacred location’ of the royal tomb
https://www.livescience.com/archaeology/ancient-egyptians/3-300-year-old-ancient-egyptian-whistle-was-likely-used-by-police-officer-tasked-with-guarding-the-sacred-location-of-the-royal-tomb

元論文

First Identification of Bone Whistle-Use in Dynastic Egypt
https://doi.org/10.1002/oa.70026

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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