200個の磁石を飲み込んだ少年、腸の一部を切除

ニュージーランドでこのほど、13歳の少年がおよそ200個の強力な磁石を飲み込んだ結果、腸の一部を切除する事態になったと報じられました。

単なる「おもちゃ」として身近にある小型磁石ですが、実は子どもを取り巻く現代社会の深刻なリスクのひとつになっています。

特にこの少年の場合は、200個の磁石が腸内でくっつき、棒状になっていたとのことです。

研究の詳細は2025年10月24日付で医学雑誌『The New Zealand Medical Journal』に掲載されています。

目次

  • 「まさか」の事故、少年の体内で起きていたこと
  • なぜ強力磁石は「おもちゃ」で済まないのか?

「まさか」の事故、少年の体内で起きていたこと

事件が起きたのはニュージーランド北部の都市タウランガ。

13歳の少年は腹痛を訴えて病院を訪れ、自ら「1週間ほど前に100個ほどのネオジム磁石を飲み込んだ」と告白しました。

医師がレントゲン検査を行うと、なんと体内の腸には4本もの磁石の“鎖”が映し出されていました。

さらに実際に手術で取り出された磁石の数は、本人の申告を大きく上回る200個近くに達していたのです。

手術を担当した医師によれば、これらの小さな磁石は腸の複数の場所で互いに強く引き寄せ合い、内臓の壁を挟み込む形で直線状に連なっていました。

【少年の体内で棒状にあった磁石の実際の画像がこちら

この状態が続くと、圧迫された腸の組織は血流が途絶え、壊死(細胞の死滅)が進行します。

少年の場合も、すでに腸の一部で組織が死んでおり、医師たちはやむなく損傷部分を切除する決断を迫られました。

幸い手術は成功し、少年は8日後に無事退院することができましたが、医療現場からは「あと一歩遅れていたら、命の危険すらあった」との声も。

この事故は、「小さな磁石」の恐ろしさと、その危険性をあらためて世に知らしめる出来事となりました。

なぜ強力磁石は「おもちゃ」で済まないのか?

なぜ小さな磁石を飲み込むだけで、ここまで深刻な事態に発展するのでしょうか。

その理由は「強力磁石」と呼ばれるネオジム磁石や希土類磁石の持つ、圧倒的な磁力にあります。

これらは一見カラフルで楽しい“おもちゃ”のようですが、体内に複数入ると腸管や胃の壁をはさんで強くくっつき、通常の異物と違って自然に排出されにくいのが特徴です。

しかも、複数の磁石が腸の異なる場所で磁力を及ぼし合えば、腸壁をはさんで圧着されるため、血流が止まり壊死や穿孔(穴が開く)を引き起こします。

このような事故は決して珍しくありません。

【こちらは少年の体内に磁石が入っていることを示すレントゲン写真

近年、SNS上では「磁石でピアスを真似する」動画や投稿が流行し、子どもや若者が興味本位で磁石を口や鼻、唇につけて遊ぶケースが急増しています。

こうした影響もあり、世界各国で子どもの磁石誤飲による手術・入院例が相次ぎ、ニュージーランドでは2013年以降、特に強力なネオジム磁石の販売が禁止されました。

しかし、今回のケースでも明らかになったように、海外のオンラインマーケット経由で規制対象の磁石が簡単に手に入る現状があり、規制の実効性が問われています。

現地当局や専門家は「親が子どもにネット通販を使わせる場合は必ず監督し、危険な商品が届かないよう徹底してほしい」と強く呼びかけています。

保護者や教育現場ができることは、「磁石の危険性」をきちんと伝え、購入時にも注意を怠らないことです。

また、子どもが磁石を飲み込んだ疑いがある場合は、速やかに救急病院を受診し「磁石誤飲の可能性がある」と必ず医師に伝えることが命を守るカギになります。

実際、誤飲患者の75%以上が手術や内視鏡による処置を必要とするため、迅速な対応が不可欠です。

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参考文献

New Zealand Teen Loses Part of His Bowel After Swallowing Nearly 200 Magnets
https://www.sciencealert.com/new-zealand-teen-loses-part-of-his-bowel-after-swallowing-nearly-200-magnets

MBIE warning to repel magnet attraction for Kiwi kids
https://www.mbie.govt.nz/about/news/mbie-warning-to-repel-magnet-attraction-for-kiwi-kids

元論文

Paediatric ingestion of one hundred small high-power magnets—the dangers of the online marketplace
https://doi.org/10.26635/6965.6972

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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