132億光年先、史上最も遠い「星間塵」を観測

宇宙が誕生してからわずか6億年後。

そこはまだ星も銀河も生まれはじめたばかりの真っ暗な宇宙の黎明期です。

そんな途方もない時代に存在した銀河から、史上“最も遠い星間塵”の観測が行われました。

早稲田大学・名古屋大学らを中心とした研究で、132億年前のその星間塵は、天の川銀河の5倍にも達する「超高温」で輝いていたことが判明したのです。

この異常な高温が、星を大量に生み出す秘訣になっているようです。

研究の詳細は2025年11月12日付で科学雑誌『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』に掲載されています。

目次

  • 宇宙誕生から6億後の銀河に「異常に熱い塵」
  • 長年の“多すぎる塵問題”に光を当てる発見

宇宙誕生から6億後の銀河に「異常に熱い塵」

今回観測されたのは、約132億光年彼方にある遠方銀河「Y1」です。

観測に用いられたのは、南米チリに並ぶアルマ望遠鏡。

日本・米国・欧州が協力して建設した世界最大級の電波望遠鏡で、特に“短い波長”の電波を精密に測ることができます。

研究チームは、アルマ望遠鏡を使って波長0.44ミリメートルの電波を観測しました。

この波長では、銀河内の星間塵が発する放射を捉えることができ、Y1からは驚くほど強い輝きが検出されました。

解析の結果、塵の温度は絶対温度90ケルビン(摂氏マイナス180度)に達していることが判明しました。

人間の感覚では“極寒”ですが、星間塵の世界ではまったく違います。

通常、天の川銀河の塵は15~20ケルビンほどしかなく、遠方銀河でも30~50ケルビンが一般的。

それに比べると、Y1の塵は他の遠方銀河の2〜3倍、天の川の約5倍という異常な高温なのです。

なぜ、宇宙が誕生して間もない小さな銀河に、これほど熱い塵が存在するのでしょうか。

その答えは、Y1が抱える“猛烈な星の生産活動”にあります。

この銀河では、1年に太陽180個分という信じがたいペースで星が誕生しています。

天の川の約180倍という速度で星が作られている計算です。

大量の星が生まれれば、生み出された星の光や衝撃波が周囲の塵を加熱します。

その結果、塵が通常では考えられない温度まで温められていると考えられています。

Y1はまさに、宇宙初期に存在した「超高温の星工場」といえるのです。

長年の“多すぎる塵問題”に光を当てる発見

この発見は、単に「塵が熱かった」という話にとどまりません。

宇宙研究者が長年抱えてきた“ある謎”を解く鍵にもなります。

その謎とは、初期宇宙の若い銀河に「なぜこんなに大量の塵があるのか」という問題です。

星間塵は、星の死や超新星爆発によって生まれますが、塵が銀河に十分たまるには時間が必要です。

しかし、宇宙誕生から数億年しか経っていない若い銀河でも、驚くほど多くの塵が見つかってきました。

研究者たちはこれを「多すぎる塵問題」と呼び、その理由がわからずにいました。

今回、Y1が“非常に高温の塵”を持っていたことは、この問題を再考するヒントになります。

というのも、少量で高温の塵大量で低温の塵は、波長1ミリメートルを超えるような長い電波では、同じような明るさで輝いてしまうため、従来の観測では区別がつかなかったのです。

つまり、これまで研究者が「たくさん塵がある」と判断していた銀河の中には、実は少量だが高温の塵が輝いていただけという可能性があるということです。

今回のように短い波長で温度を正確に測る観測ができてこそ、塵の量をより正確に見積もれるようになります。

チームは今後、Y1のような高温塵を持つ銀河がどれほど存在するのかを調べる予定です。

また、アルマ望遠鏡の高解像度観測によって、銀河内のどこで星が生まれ、どこに塵が分布しているのかを詳しく探る計画も進んでいます。

これにより、初期宇宙の銀河がどのように成長し、どのように元素や塵を蓄積していったのかという大きな謎に迫ることができるかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

132億年前の銀河に超高温の星間塵 ~天の川の5倍の熱さ 猛烈な星形成で加熱~
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2025/11/132-5.html

元論文

A warm ultraluminous infrared galaxy just 600 million years after the big bang
https://doi.org/10.1093/mnras/staf1714

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

タイトルとURLをコピーしました