1年のうち2日間だけ「黄色に変色する」カエル、その理由とは?

1年のうちに2日間だけ、茶色から鮮やかな黄色に変色するオスのカエルがいます。

アジアを中心に広く分布する「ヘリグロヒキガエル(Duttaphrynus melanostictus)」という種類です。

なぜこのカエルたちは、年に2日だけ「目立つ黄色」を選ぶのでしょうか?

研究の詳細は2025年9月2日付で科学雑誌『Ichthyology & Herpetology』に掲載されています。

目次

  • 年に一度の変色、なぜオスだけが黄色に?
  • 「黄色」はモテ色ではない?カエル社会のリアル

年に一度の変色、なぜオスだけが黄色に?

ヘリグロヒキガエルは「爆発的繁殖型」と呼ばれる繁殖様式をもちます。

これは、雨季の訪れとともに数百、数千というカエルたちが一斉に水辺に集まり、数日間で一気に産卵・受精を終えてしまう、まさに“大集団婚”のようなイベントです。

この短期間にオスたちは競い合ってメスを探し、できるだけ多くの卵に精子を届けようと必死になります。

そのため、カエルたちは普段の地味な体色ではなく、オスだけが急激に鮮やかな黄色へと変化するという珍しい現象を示します。

【こちらが実際の画像です】

一見、「メスへのアピール?」と思いきや、実はメスはこの期間、ほとんどパートナーを選ぶ余地がありません。

むしろ、オス同士の間違った“勘違い交尾”や、密集する集団内での無駄なエネルギー消耗を避けるために、この色の違いが重要な役割を果たしているのです。

オーストリア・ウィーン大学(University of Vienna)らの最新研究によると、オスが鮮やかな黄色に変わることで「自分はオスだ」と周囲に強くアピールできるため、他のオスから無駄に抱きつかれることを防ぎ、メス探しに集中できるというのです。

この現象を解明するために、研究チームはカエルの視覚シミュレーターを開発し、実際にカエルがどう周囲を見ているのかを再現。

さらに模型実験では、オスたちが茶色の模型(メスの色)には2倍多く接触し、黄色の模型にはほとんど興味を示さなかったことが明らかになりました。

「黄色」はモテ色ではない?カエル社会のリアル

興味深いのは、この黄色が「強いオス」や「健康なオス」を示す“モテ色”ではない、という事実です。

多くの動物では、派手な色や大きな装飾が「遺伝的な優秀さ」のサインとされ、メスがそれを選ぶことで進化してきました。

しかし本種の場合、メスにはほとんど選択権がなく、オスが色でアピールする必要はありません。

実際、チームがオスの大きさや体重、体調を調べても、黄色いオスが特に優れているという傾向は見られませんでした。

つまり、黄色い体色はただ「自分はオスだ」と伝えるための、カエル社会の“ルール表示”のようなもの。

発情したオスたちは、メスだけでなく、動く茶色い物体ならなんでも抱きついてしまうことがあり、時には落ち葉や植物の実にまでアタックすることもあるそうです。

この混乱を減らすため、「黄色=オス、茶色=メス」と明確な区別をつけることで、オス同士の交尾ミスや激しい争いを防いでいるのです。

しかし現場はかなりカオス。

メスに複数のオスが同時に群がり「交尾ボール」が形成されることも珍しくなく、ときにはメスが溺れてしまうリスクもあるといいます。

それでもメスは産卵が終わるとすぐに水辺から逃げ出し、1週間ほどでオタマジャクシが孵化してバラバラに散っていきます。

派手なイベントは年に2日だけ、自然界の不思議なリズムがここにも現れているのです。

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参考文献

For Just Two Days A Year, These Male Toads Turn A Jazzy Bright Yellow. Now We Know Why
https://www.iflscience.com/for-just-two-days-a-year-these-male-toads-turn-a-jazzy-bright-yellow-now-we-know-why-81393

元論文

Dynamic Sexual Dichromatism Promotes Rapid Mate Recognition in an Explosive Breeding Toad
https://doi.org/10.1643/h2024105

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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