1億3000万年前の「双子を妊娠した魚竜」の化石を発見!

1億年以上も前の魚竜の化石が精巧な状態で見つかることは、それ自体とても貴重なことです。

しかし今回、チリ・マガジャネス大学(University of Magallanes)の古生物学者らは、1億3100万年前の魚竜化石を発見しただけでなく、その個体が双子の胎児を妊娠していたことを明らかにしました。

白亜紀前期の地層から妊娠中の魚竜が発見されたのは、これが初めてとのことです。

研究の詳細は2025年2月25日付で科学雑誌『Journal of Vertebrate Paleontology』に掲載されています。

目次

  • 双子を妊娠した魚竜化石を発見!極めてレア
  • 頭から?尾から?胎児の出産の方向も明らかに

双子を妊娠した魚竜化石を発見!極めてレア

ジュラ紀から白亜紀にかけて、海を支配していたのが「魚竜(イクチオサウルス)」と呼ばれる海棲爬虫類です。

彼らは恐竜の出現時期(約2億3000万年前)よりやや早く誕生し、恐竜が絶滅するより約2500万年前に姿を消しました。

その見た目は現代のイルカやクジラに似た流線型の体を持ち、優れた遊泳能力を誇る捕食者だったことがわかっています。

これまでの研究で、魚竜が胎生(卵ではなく、人と同じように子供を直接産む)であることは知られていました。

しかし今回のように、双子を妊娠した状態のまま化石化した例はきわめて珍しく、白亜紀からの発見は世界で初めてです。

発見された魚竜化石の個体は「フィオナ(Fiona)」と命名されており、最初に発見されたのは2009年のことでした。

しかし化石全体が完全に発掘されるのは、それから10年後のことです。

フィオナは「ミオブラディプテリギウス・ハウタリ(学名:Myobradypterygius hauthali)」という種で、これまでにアルゼンチンで断片的な化石が見つかっていました。

全長は約3.5メートルで、 最初の発掘時にはすでに胎児の一部が確認されています。

ただ詳細な分析のために行われた新たなCTスキャンの結果、体内には2体の胎児が含まれていたことが明らかになったのです。

魚竜は複数の子供を同時に妊娠していたと考えられるので、双子であること自体が珍しいわけではありません。

魚竜のほぼ完全な全身骨格と、胎児がまだ体内に残された状態で見つかったことが非常に稀少だったのです。

頭から?尾から?胎児の出産の方向も明らかに

CTスキャンによりフィオナの体内が詳細に可視化された結果、1体と思われていた胎児が実は2体であったことが判明しました。

この双子の胎児は母体の肋骨と肋骨の間にそれぞれ位置しており、1体ずつ異なる角度で収まっていたことから、明確に2体と判断されました。

また、注目すべきは出産の方向性です。

初期の魚竜は胎児を頭から出産していたと考えられていましたが、フィオナの胎児の配置から、本種は尾から出産していたことが示唆されています。

これは現代のイルカやクジラと同様の適応で、水中出産時に窒息のリスクを減らす有利な形態とされています。

さらにフィオナの消化管からは小型魚類の骨の断片が確認されており、彼女が最後に食べた獲物だった可能性があります。

これは白亜紀の魚竜の食性を示す貴重な直接証拠であり、単なる骨格標本では分からない行動的な側面にも光を当てるものです。

今回の発見は、死の瞬間をそのまま封じ込めたかのような化石が、1億年以上の時を経て語りかけてくるという、まさにタイムカプセルのような事例となりました。

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参考文献

‘Twins! She has another baby’: Sea monster from Chile had 2 buns in the oven, rare fossil reveals
https://www.livescience.com/animals/extinct-species/twins-she-has-another-baby-sea-monster-from-chile-had-2-buns-in-the-oven-rare-fossil-reveals

元論文

The first gravid ichthyosaur from the Hauterivian (Early Cretaceous): a complete Myobradypterygius hauthali von Huene, 1927 excavated from the border of the Tyndall Glacier, Torres del Paine National Park, southernmost Chile
https://doi.org/10.1080/02724634.2024.2445705

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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