嘘をつくと鼻が伸びるピノキオ。
そんなピノキオに似た不思議な姿のカメレオンが、マダガスカルの森に生息していることをご存知でしょうか。
かつては一つの種と思われていた「ピノキオ・カメレオン」ですが、独バイエルン州動物学コレクション(ZSM)の最新研究により、実は複数の種に分けられることが明らかになりました。
その中で、新種も新たに記載されています。
研究の詳細は2025年10月30日付で科学雑誌『Salamandra』に掲載されました。
目次
- ピノキオ・カメレオンとは何者か?
- DNA解析が明かした「種の正体」
ピノキオ・カメレオンとは何者か?
【ピノキオ・カメレオンの画像はこちら】
アフリカ大陸の南東部に浮かぶマダガスカルは、世界のカメレオン種のおよそ40%が生息する“カメレオン王国”として知られています。
その中でも特に奇妙な存在感を放つのが、長い鼻を持つ「ピノキオ・カメレオン」です。
1877年に初めて記載されて以来、このカメレオンは「Calumma gallus(カールマ・ガルス)」という学名で呼ばれてきました。
学名の「gallus」はラテン語で「雄鶏」を意味しますが、でこぼこで突き出した長い鼻が、あまりにも童話のピノキオを思わせることから、いつしか“ピノキオ・カメレオン”の愛称で親しまれるようになりました。
このカメレオンのオス個体は、特徴的な長い鼻を持つことで有名です。
研究者たちは長年、その鼻の長さや形が個体によって異なることを知っていましたが、それを単なる個体差と考えてきました。
また、カメレオンならではの鮮やかな色変化や、獲物を一瞬で捉える弾丸のような舌、左右別々に動く目など、多彩な特徴とともに、独自の進化を遂げてきたことも注目されてきました。
DNA解析が明かした「種の正体」
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しかし近年、「ミューゼオミクス」と呼ばれる最先端のDNA解析手法によって、長年の思い込みに終止符が打たれました。
研究チームは、博物館に保存されていた180年以上前の古い標本からDNAを抽出し、遺伝子情報を詳しく調べました。
その結果、「ピノキオ・カメレオン」としてまとめられていた個体の中に、全く異なる新種が複数存在していることが判明したのです。
新たに命名された「Calumma pinocchio(カールマ・ピノキオ)」は、まさにピノキオの名にふさわしい新種のカメレオン。
また、これまで「Calumma nasutum(カールマ・ナスツム)」と考えられていた別の個体群も、新種「Calumma hofreiteri(カールマ・ホフライテリ)」として再分類されました。
驚くべきことに、これらのカメレオンは鼻の長さや形、色が非常に変わりやすく、しかもその進化は雌の好みに左右されている可能性があることも明らかになりました。
まるでメスの気まぐれが、オスたちの“鼻自慢”競争を激化させているようです。
参考文献
Long-nosed Pinocchio chameleon fooled researchers—two new species identified
https://phys.org/news/2025-11-nosed-pinocchio-chameleon-species.html
No lie. The long-nosed Pinocchio chameleon is multiple species.
https://www.popsci.com/environment/pinocchio-chameleon-species/
元論文
Glaw, F., S. Agne, D. Prötzel, P.-S. Gehring, J. Köhler, M. Preick, F. M. Ratsoavina, N. Straube, K. Wollenberg Valero, A. Crottini & M. Vences
https://www.salamandra-journal.com/index.php/contents/2025-vol-61/2205-glaw,-f-,-s-agne,-d-pr%C3%B6tzel,-p-s-gehring,-j-k%C3%B6hler,-m-preick,-f-m-ratsoavina,-n-straube,-k-wollenberg-valero,-a-crottini-m-vences
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

