人生のどの段階でも骨の強さは健康の土台です。
転倒や骨折を防ぎ、自立した生活を続けるために、骨を強く成長させ、どう守っていくかは重要なことなのです。
国際骨粗鬆症財団(IOF)のリハビリテーション・ワーキンググループは、これまでの研究を分析し、運動と座りっぱなしの時間が骨の健康にどう影響するかを、子どもから高齢者まで整理しました。
そしてグループは、世界中の研究を総合して「骨を守る秘訣は運動だけでは足りない」ことを強調しました。
この詳細は、2025年8月15日付の『Calcified Tissue International』に掲載されました。
目次
- 人生を通して「骨を強くする」には?
- 「運動」と「座りっぱなし」は、骨の健康にそれぞれ独立して影響を及ぼす
人生を通して「骨を強くする」には?
私たちは「運動すれば骨は強くなる」と学んできましたが、現代の生活ではそもそも座っている時間がとても長くなっています。
学校や仕事、移動や娯楽の多くが椅子の上で行われ、子どもも大人も一日の大半を座位で過ごすことが珍しくありません。
座りっぱなしが肥満や糖尿病、心血管疾患のリスクになることはよく知られていますが、骨の健康に対してどれほど独立した悪影響があるのかは十分に整理されていませんでした。
今回のレビューは、そうしたギャップを埋める目的で、身体活動と座り行動が骨の健康に与える影響をライフステージ別に評価しました。
分析の対象になったのは、疫学研究、システマティックレビュー、メタ解析など信頼性の高い研究群です。
活動量や座位時間の測定には、質問票などの自己申告に加え、加速度計など客観的なウェアラブル測定を用いた研究も採用されました。
このレビューが特に重視したのは、「骨がどれくらい丈夫か」(骨密度)と、「骨折しやすいかどうか」(骨折リスク)という2つのポイントです。
子どもの骨がどれくらいしっかり成長するか、大人や高齢者の骨折をどう防ぐかまで、幅広い年齢層をカバーして調べています。
さらに、座っている時間の一部を軽い活動や中強度以上の活動に置き換えたとき、骨にどのような変化が起こるのかという「置き換え効」にも目を向けています。
加えて、世界保健機関(WHO)が推奨する身体活動量との整合性も検討され、現実的な行動指針に落とし込めるかどうかも確かめられました。
「運動」と「座りっぱなし」は、骨の健康にそれぞれ独立して影響を及ぼす
レビューの結論は明快で、運動と座りっぱなしは骨の健康にそれぞれ独立して影響するということでした。
つまり、運動をしていても長時間の座位が続けば骨にはマイナスが残り、逆に激しい運動が難しくても座る時間を減らしてこまめに動けば骨にはプラスが積み上がります。
子どもや思春期では、テレビやスマホなどのスクリーンタイムが長いほど、体重を支える部位の骨密度が低くなる傾向が示されました。
一方で、走る、跳ぶ、筋トレなどの負荷のかかる活動は、成長期の骨量をしっかり増やすことに役立つと報告されています。
成人期では、中〜高強度の体重負荷運動やレジスタンストレーニングが骨密度の維持に有効で、骨折リスクの低減とも結びつきます。
しかし、日中の多くを座って過ごす生活により、股関節や大腿骨など体重を支える部位の骨密度が下がりやすいことも明らかになりました。
高齢者や閉経後女性では、たとえ軽い活動であっても、座っている時間を動きに置き換えることが骨の維持に意味を持つことが示されました。
家の中の移動や家事、短い散歩などの積み重ねでも、座りっぱなしを続けるより骨には有利に働いていたのです。
今回の結果からすると、骨の健康を守るために日常で私たちが実践すべきことはシンプルであり、それはWHOのガイドラインとかなり一致していました。
子どもは1日60分以上の身体活動を確保し、スクリーンタイムをだらだら延ばさないようにすべきです。
成人は週に150〜300分の身体活動、そして全世代に共通して、長時間の座りっぱなしを避け、こまめに立ち上がって体を動かすべきです。
この「運動を増やす」と「座る時間を減らす」を両立させる視点こそが、骨を守るための新しい基本になるでしょう。
この知見は、職場や学校、地域でも反映させられるかもしれません。
例えば、立って話し合える場や、歩きやすい動線、気軽に体を動かせる環境があれば、座りっぱなしを自然に減らせるでしょう。
一方で、今回のレビューには限界もあります。
多くの研究が自己申告データに依存しており、食事内容や体重、性差、社会的要因を完全にコントロールできない場合があります。
座位のどれくらいを、どの活動に、どの年齢層で置き換えると最も有効かという「最適処方」も、今後の検証課題として残っています。
それでも、運動の恩恵と座りっぱなしの害が別々の軸で骨に作用するという全体像は揺らぎません。
骨は一生ものの資産なので、今日からできる小さな置き換えを積み重ねることが将来の骨折リスクを減らします。
運動だけではなく、まずは座りっぱなしの時間を見直すことから、骨を守る新しい一歩を始めましょう。
参考文献
For stronger bones at any age, replace sitting with light activity
https://newatlas.com/health-wellbeing/bone-health-lifespan-activity-vs-sedentary-time/
Reducing sedentary behaviour and increasing physical activity found to protect against bone loss and fractures across all ages.
https://www.osteoporosis.foundation/news/new-research-highlights-critical-role-movement-lifelong-bone-health-20250908-1540
元論文
The Impact of Sedentary Behavior and Physical Activity on Bone Health: A Narrative Review from the Rehabilitation Working Group of the International Osteoporosis Foundation
https://doi.org/10.1007/s00223-025-01421-6
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

