にぎやかなカフェや混雑したレストラン、ザワザワと騒がしいオフィス内など。
こうした場所で友人や同僚との会話を聞き取るのが苦手だと、「自分の耳が悪いのかも」と感じてしまう人は多いかもしれません。
しかし米ワシントン大学(UW)の最新研究によれば、その「聞き取りにくさ」は耳の性能ではなく、実は「IQ(知能指数)」の高さと密接に関係していることが明らかになりました。
研究の詳細は2025年9月24日付で学術誌『PLOS ONE』に掲載されています。
目次
- 騒がしい場所で会話を聞き取る能力は「IQ」に関連?
- 「聞き分ける力」は脳の情報処理に依存していた
騒がしい場所で会話を聞き取る能力は「IQ」に関連?
研究チームは今回、自閉スペクトラム症、胎児性アルコール症候群、そして健常者の3グループを対象に、騒がしい環境下でどれだけ会話を正確に聞き取れるかを調査しました。
この研究では、まず参加者全員が「聴力検査」で医学的に正常と診断されたことを確認しています。
つまり、いわゆる「難聴」ではない人だけが対象です。
そのうえで、パソコン上のシミュレーションによるリスニング課題――メインの話者の声を、2人の別の話者の声(バックグラウンドノイズ)が混ざる中で聞き取る課題に挑戦してもらいました。
たとえば「レディー、イーグル、グリーンの5番に行け」というような短い指示文を、複数の話し声が重なる中から選び出して答えるというものです。
ここで驚くべきことに、知能指数が高い人ほどこの課題をスムーズにクリアし、逆にIQが低い人ほど聞き取りに苦戦する傾向が明らかになりました。
しかもこの傾向は、「自閉スペクトラム症」「胎児性アルコール症候群」「健常者」いずれのグループでも共通しており、診断名の違いを超えて「知能の高さ」が聞き取り能力に直結しているという一貫した結果が得られたのです。
「聞き分ける力」は脳の情報処理に依存していた
なぜ知能が高い人ほど騒がしい場所で会話を聞き取りやすいのでしょうか?
チームはその理由を「複雑な音環境では、単に耳で音を拾うだけでなく、脳内で多段階の情報処理が必要になるから」と説明しています。
たとえば、複数の音声ストリームから「自分が注目すべき話者」を選び出し、他の雑音を無意識に抑制する、この“仕分け”には、高度な注意力や選択的集中力が必要です。
さらに、聞き取った音声を瞬時に意味に変換し、会話の内容を理解して即座に反応する能力(たとえばうなずく、笑うなど)も問われます。
こうした「音の聞き分け」「意味の抽出」「社会的なやりとり」といった一連の処理は、実は大きな“認知的負担”を生じさせます。
そのため、IQが高く脳の処理能力が高い人ほど、騒がしい中でも会話を成立させやすいのです。
この発見は「聞き取りにくい=耳が悪い」という一般的な誤解をくつがえすものとなりました。
参考文献
Your IQ May Affect How Well You Can Hear Speech, Study Shows
https://www.sciencealert.com/your-iq-may-affect-how-well-you-can-hear-speech-study-shows
IQ appears to affect ability to listen in noisy settings
https://newsroom.uw.edu/news-releases/iq-appears-to-affect-ability-to-listen-in-noisy-settings
元論文
The relationship between intellectual ability and auditory multitalker speech perception in neurodivergent individuals
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0329581
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

