ドローンの進化により、生身のパイロットたちが主体だった空中戦にも変化が生じています。
そして今回、米ロッキード・マーティン( Lockheed Martin)社の先進開発部門である Skunk Works が、その変化を象徴する歴史的な実証実験に成功しました。
2025年11月、同社は飛行中の F-22 戦闘機が別の無人航空機を直接指揮し、任務プロファイルを実行させることに初めて成功したと発表しました。
この成果は、有人機と無人機がチームとして戦う新しい空中戦の形が現実のものになりつつあることを示しています。
目次
- F-22パイロットによる「僚機ドローン」の操作に成功
- ドローン操作を可能にする技術とは?
F-22パイロットによる「僚機ドローン」の操作に成功
空中戦でパイロットが担ってきた役割は、長いあいだ変わらず過酷なものでした。
高度な操縦をこなしながら、敵味方の位置をつねに把握。武器システムを操作し、生きて帰ることまで一人で背負わなければなりませんでした。
F-22 のような単座戦闘機では、この負担はさらに大きくなります。
パイロットはマッハに近い速度で飛行する機体を扱いながら、センサー情報や通信を処理し、多数の判断を一瞬で下さなければいけないのです。
その一方で、現代の戦闘機は恐ろしいほど高価な兵器になっています。
初期のジェット戦闘機が短期間で開発され、比較的安いコストで数をそろえられた時代とは事情が大きく変わっています。
技術が高度になるにつれて開発には長い年月がかかり、機体価格も急激に上昇しました。
このままコストの上昇が続けば、それぞれの空軍が保有できる戦闘機が極端に減ってしまう可能性もあります。
こうした背景から、アメリカ空軍が重視しているのが CCA(Collaborative Combat Aircraft)と呼ばれる新しい概念です。
これは、自律飛行が可能な無人機を「ロイヤル・ウィングマン」、つまり忠実な僚機として有人戦闘機の周囲に配置し、パイロットはその指揮官として振る舞うという戦い方です。
無人機は比較的安価で、失われても人命が失われないため、危険な空域への突入や偵察など、人間を乗せにくい任務を任せることができます。
高価で数をそろえにくい戦闘機を補い、全体としての戦力を底上げする狙いもあります。
今回の実証では、ネリス空軍基地から離陸した F-22 が飛行中に無人航空機とリンクし、「どのような任務を行うか」という指示を与えました。
重要なのは、パイロットが無人機のすべての操作を細かく承認する方式ではなかったという点です。
人間が一つ一つの動きを命令するのではなく、大きな方針や目的を与え、具体的な動き方は無人機側の自律システムに任せる「on-the-loop」の形で運用されました。
つまり F-22 は自機の飛行と戦場の状況把握を続けながら、同時に無人機に任務を与える「空中の司令官」として振る舞うことに成功したのです。
では、この新しい空中戦の形を可能にしている技術とは、どんなものでしょうか。
ドローン操作を可能にする技術とは?
この実証の中心にある技術が、コクピットに搭載された PVI(Pilot Vehicle Interface)です。
PVI は、パイロットが機内から無人機に指示を送るための新しい表示装置兼操作インターフェースとして設計されています。
画面上で任務内容を選び、無人機に送信することで、パイロットは自分の機体を操縦しながら、別の航空機に「どこへ行き、何をするか」を伝えることができます。
ロッキード・マーティンは、この PVI を現在の戦闘機だけでなく、将来の機体にも統合しやすい柔軟なシステムとして位置づけています。
同社は、F-22 や F-35 などの第五世代戦闘機と自律型ドローンを組み合わせる「人間と機械のチーム運用」に、長年力を入れていると説明しています。
Another breakthrough by Skunk Works®. 🦨
Our technology enabled an F-22 pilot to control an uncrewed system in flight, advancing integrated teaming. pic.twitter.com/x82rmeCNGb
— Lockheed Martin (@LockheedMartin) November 19, 2025
この実証は SNS 上でもさまざまな反応を呼びました。
技術の進歩を称賛し、「空中戦の未来が現実になりつつある」と評価する声もありました。
その一方で、なぜ地上から操作せずに、あえて戦闘機のコクピットから無人機を指揮する必要があるのかという疑問も出ています。
パイロットが自分の機体に加えて無人機の指揮まで担うことで、作業負担が増えすぎないかという不安も語られました。
これらの反応は、軍事技術の進歩が人々に期待と同時に不安も与えていることをよく表しています。
それでも、F-22 が飛行中に無人機を指揮することに成功した今回の実証は、空中戦の未来を切り開く節目となりました。
もちろん、どれほど技術が進んでも、戦争そのものが悲惨であるという事実は変わりません。
新しい空中戦の形が世界にどのような影響を及ぼすのか慎重に見守っていかねばなりません。
参考文献
Skunk Works makes history: F-22 takes command of ‘loyal wingman’ drone
https://newatlas.com/military/lockheed-martin-5th-gen-fighter-drone-control/
Lockheed Martin Uses 5th Gen Fighter to Command Drone in Flight
https://news.lockheedmartin.com/2025-11-19-Lockheed-Martin-Uses-5th-Gen-Fighter-to-Command-Drone-in-Flight
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

