音楽を楽しむことは、人生を豊かにするだけでなく、脳をより健康的な状態に保つようです。
オーストラリアのモナシュ大学(Monash University)の研究チームが、70歳以上の高齢者1万人以上を対象とした大規模な調査で、「音楽をよく聴く人は認知症になるリスクが低い」ことを明らかにしました。
最大39%も低下していたというのだから驚きです。
この成果は2025年10月14日付の『International Journal of Geriatric Psychiatry』誌に掲載されました。
目次
- 音楽がもつ「脳を刺激する力」を検証、認知症予防に効果がある?
- 音楽をよく聴いている高齢者は認知症リスクが39%低いと判明
音楽がもつ「脳を刺激する力」を検証、認知症予防に効果がある?
高齢化社会の進展とともに、認知症は世界中で大きな社会問題となっています。
薬による根本的な治療法がないなか、「日々の生活習慣や趣味が認知症の予防につながるのでは?」という視点から、さまざまな研究が行われてきました。
音楽は、昔から「脳に良い」と言われてきましたが、本当に音楽を楽しむ習慣が認知症リスクにどれほど影響を与えるのか、科学的なデータは十分にありませんでした。
そこで今回の研究は、オーストラリアで実施されている大規模健康調査「ASPREE」と、「ALSOPサブスタディ」のデータを用いて、その疑問にアプローチしています。
対象は、調査開始時点で認知症ではなかった70歳以上の高齢者10,893人です。
そして研究チームは、参加者に「どれくらい頻繁に音楽を聴くか」「楽器を演奏するか」を質問し、回答を「いつも」「よく」「たまに」「ほとんどしない」などに分類しました。
また、年齢や性別、学歴など、認知症のリスクに関わるさまざまな要因も同時に記録。
このうえで、平均3年以上の追跡期間を設け、どのくらいの人が認知症を発症したのか、また認知症とまではいかなくても「認知機能障害(CIND)」が見られたのかを統計的に分析しました。
研究の目的は、音楽を楽しむ習慣が、実際に認知症や認知機能障害(CIND)のリスクを減らすのかどうかを、客観的かつ大規模なデータで明らかにすることでした。
音楽をよく聴いている高齢者は認知症リスクが39%低いと判明
研究の結果、「音楽をいつも聴いている」と答えた人は、「ほとんど聴かない」「たまに聴く」人に比べて、認知症を発症するリスクが39%も低いことが分かりました。
また、まだ認知症とは診断されないが、記憶力や判断力の低下がみられる「認知機能障害(CIND)」のリスクも17%低下していました。
そして「楽器をよく演奏する」人も認知症リスクが35%低下していました。
さらに、「音楽を聴く」と「楽器を演奏する」両方を日常的に行う人は、認知症リスクが33%低下、認知機能障害(CIND)のリスクも22%減少すると分かっています。
このように、よく音楽を聴いたり楽器を演奏したりする人では、音楽が脳を守っているかのような影響が得られていました。
ただし、「自分で感じる(主観的な)頭の冴え」については、明確な差は見られませんでした。
では、なぜ音楽が脳に良い影響を与えるのでしょうか。
研究チームは、「音楽を聴いたり演奏したりすることで、記憶、感情、注意、運動など、複数の脳領域が同時に刺激されるためではないか」と考えています。
また、過去の研究では、懐かしい曲を聴くことで「やる気」や「報酬」を感じる脳の領域が活性化されることも分かっています。
もちろん、この研究は「観察研究」であり、「音楽が認知症を必ず防ぐ」と断言することはできません。
音楽を楽しむ人はもともと健康的な生活をしている可能性もあるため、因果関係をはっきり証明するにはさらなる研究が必要です。
今後は、異なる国や文化、音楽のジャンルや種類、さらにはどのような演奏活動が最も効果的かなど、さらに細かく分析していくことが期待されています。
音楽を日々の生活に取り入れることが、脳の健康を守る新たな方法として注目されています。
好きな音楽に耳を傾ける時間が、思いがけないほど脳の健康につながる可能性も見えてきました。
参考文献
Music may lower risk of dementia by up to 39% in older adults
https://newatlas.com/brain/alzheimers-dementia/music-dementia-over-70s/
Listening to or playing music over 75 linked to up to 39% reduction in dementia risk, study finds
https://medicalxpress.com/news/2025-10-playing-music-linked-reduction-dementia.html
元論文
What Is the Association Between Music-Related Leisure Activities and Dementia Risk? A Cohort Study
https://doi.org/10.1002/gps.70163
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

