米テキサス州で、これまで自然界では存在しないと考えられていた「異色の鳥」が確認されました。
発見されたのは、青い羽で知られるカケスと、鮮やかな緑の羽を持つカケスが交配して生まれたハイブリッド個体です。
両者は本来700万年以上も前に分かれた遠縁の種であり、自然界での交雑は極めて異例の出来事と、テキサス大学オースティン校(UT Austin)の研究チームは話します。
研究者によると、この現象の背景に「気候変動による分布域の重なり」があるとのことです。
研究の詳細は2025年9月10日付で科学雑誌『Ecology and Evolution』に掲載されています。
目次
- かつて交わらなかった2種が出会うまで
- ゲノム解析で判明した「ハイブリッド」
かつて交わらなかった2種が出会うまで

青色の羽をもつ「アオカケス(学名:Cyanocitta cristata)」は北米東部を代表する小鳥で、郊外の庭や公園でもよく見られる身近な存在です。
一方、胴体が緑色の羽毛で覆われる「グリーンジェイ(学名:Cyanocorax luxuosus)」は中米やメキシコに生息する熱帯性のカケスで、羽の緑と青の美しさからバードウォッチャーに人気の高い鳥です。
ところが、この2種は長い進化の歴史の中で分布域を大きく隔てて暮らしてきたため、自然界で出会うことはありませんでした。

状況が変わったのは20世紀後半以降です。
気候の温暖化によって、熱帯性のグリーンジェイは南テキサスへ北上を始め、逆にアオカケスは西へと分布を広げてきました。
その結果、サンアントニオ周辺で両者の生息域が重なるようになったのです。
1950年代には両者の繁殖地は200キロ以上離れていたことを考えると、わずか数十年での劇的な変化といえます。
研究チームは、SNS上のバードウォッチャーの投稿から「奇妙な青い鳥」の存在に気づきました。
黒いマスク模様と白い胸を持ちながら、アオカケスともグリーンジェイとも違う姿。
その個体は2023年、研究者によって捕獲され、血液サンプルが採取されました。
ゲノム解析で判明した「ハイブリッド」
捕獲された鳥の外見は両種の特徴を折衷していました。
頭部や目の上の模様はグリーンジェイに近い一方、背中や尾羽の模様はアオカケスに似ていました。
また、鳴き声も両者の特徴を持ち合わせており、アオカケスの鋭い声と、グリーンジェイ特有の二音の低い声を織り交ぜるように鳴いていたと報告されています。
ハイブリッド個体の画像はこちら。(左がアオカケス、中央がハイブリッド、右がグリーンジェイ)
決定的だったのはゲノム解析です。
血液サンプルから得られたDNAを詳細に調べた結果、この個体が「メスのグリーンジェイ × オスのブアオカケス」の第一世代(F1)であることが判明しました。
母系のミトコンドリアDNAはグリーンジェイと一致し、核DNAは両者からほぼ半分ずつ受け継いでいたのです。
チームはこの結果を「700万年以上前に分岐した異なる属同士の鳥が自然界で交配した、初めての事例」と位置づけています。
これまで確認されてきた鳥類の交雑は、近縁種同士に限られる場合が大半でした。
アオカケスとグリーンジェイの組み合わせは、進化的な距離の大きさから想定外とされていたのです。
さらにeBirdの膨大な観察記録を分析したところ、2000年以降、両者が同じ場所で目撃されるケースが増加していることも分かりました。
将来の気候シナリオを使った分布予測モデルでも、両者の生息域はさらに北へ移動し、重なりが続くことが示されています。
つまり今回の発見は、今後さらに同様の事例が増える可能性を示す「先駆け」なのです。
今回のハイブリッド鳥は、単なる珍しい生き物の発見にとどまりません。
気候変動によって分布が変わることで、これまで出会うことのなかった動物同士が交わり、新しい遺伝的組み合わせが生まれる現象の象徴といえるのです。
参考文献
A grue jay? Rare hybrid bird identified in Texas
https://phys.org/news/2025-09-grue-jay-rare-hybrid-bird.html
Introducing the “Grue Jay”: A New Feathery Discovery
https://scienmag.com/introducing-the-grue-jay-a-new-feathery-discovery/
元論文
An Intergeneric Hybrid Between Historically Isolated Temperate and Tropical Jays Following Recent Range Expansion
https://doi.org/10.1002/ece3.72148
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部