陰謀論をコンテンツとして楽しむ分には問題ありません。
しかし陰謀論を本当に信じ込んでしまうと、社会交流において問題が発生し、周囲とのコミュニケーションが崩壊してしまう恐れがあります。
そして英ノッティンガム大学(University of Nottingham)の研究チームはこのほど、睡眠不足や不眠症に陥っている人ほど、陰謀論を信じやすくなる可能性が高いことを発見しました。
なぜ睡眠不足は陰謀論者を生んでしまうのでしょうか?
研究の詳細は2025年3月12日付で学術誌『Journal of Health Psychology』に掲載されています。
目次
- 陰謀論にハマるのはどんな人?
- 睡眠不足が陰謀論者を生む要因に
陰謀論にハマるのはどんな人?

陰謀論とは、社会的な出来事の背後に秘密の組織や政府の策略があると信じる考え方です。
例えば、「月面着陸は捏造だった」「COVID-19は人工的に作られたウイルスだ」といった主張がその代表例です。
このような陰謀論にハマりやすい人にはいくつかの共通点があります。
過去の研究では、陰謀論信奉の要因として、不安や疑念の強さ、社会への不信感、情報リテラシーの低さなどが指摘されてきました。
しかし最近の研究では「睡眠の質の低下」も重要な要因になりうることが示唆されています。
ノッティンガム大学の研究チームは、睡眠不足が認知能力や感情のコントロールに与える影響に着目し、「睡眠不足の人は誤情報に対する警戒心が低くなるのではないか?」という仮説を立てました。
そこで彼らは2つの実験を通じて、この関係を詳しく調査しました。
睡眠不足が陰謀論者を生む要因に
研究チームはまず540人の参加者を対象に、過去1カ月間の睡眠の質を評価しました。
その後、参加者に2019年に発生したパリ・ノートルダム大聖堂の火災に関する記事を読んでもらい、その内容をどの程度信じるかを調査しました。
記事の種類は2つあり、
・1つは「火災は事故だった」という事実に基づいた内容
・もう1つは「火災は陰謀によるものだ」という虚偽の情報
結果として、睡眠の質が低い参加者は、陰謀論的な記事を信じる傾向が強いことが判明しました。
つまり、寝不足の人は「火災の原因は隠蔽された陰謀だ」と考えやすかったのです。
さらに別の実験では、575人の参加者を対象に、睡眠の質・不眠症・抑うつ症状・陰謀論信奉との関連性を分析しました。
その結果、睡眠不足や不眠症を抱える人は陰謀論を信じる確率が高くなることが示され、抑うつ症状がこの関係を仲介する要因である可能性が示唆されました。

では、なぜ睡眠不足が陰謀論を信じることにつながるのでしょうか?
研究者たちは、これには主に3つの要因が関係していると考えています。
1:認知能力の低下
・睡眠不足は情報処理能力や批判的思考を低下させるため、誤った情報を見抜きにくくなります。
2:感情の不安定化
・寝不足の人はストレスや不安を感じやすくなり、社会に対する不信感が強まる傾向があります。
3:抑うつ症状の影響
・睡眠不足は抑うつ症状を悪化させ、それが陰謀論を信じやすくなる要因になっている可能性があります。
この研究の結果は、単に「よく眠ることが大事」というだけでなく、社会的な誤情報の拡散を防ぐためにも睡眠の質が重要であることを示唆しています。
今回の研究は、睡眠不足が陰謀論信奉の一因になりうることを示しました。
つまり、社会全体で誤情報の拡散を防ぐためには、一人ひとりが良質な睡眠を確保することも重要なのです。
もし最近、妙に陰謀論に引き寄せられていると感じたら、それは単なる知的好奇心ではなく、睡眠不足のせいかもしれません。
参考文献
Poor sleep can make you more susceptible to conspiracy theories
https://www.popsci.com/health/poor-sleep-conspiracy-theory/
元論文
Investigating the link between sleep quality and belief in conspiracy theories
https://doi.org/10.1177/13591053251320598
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部