銃弾を受けクチバシを失いかけたワシ、7度の手術で「回復」の兆し

ストレス

2024年7月、米ミズーリ州で、無残な姿をしたハクトウワシが発見されました。

クチバシの上部が銃弾によって無惨にえぐり取られており、ほとんどちぎれかけていたのです。

その後、猛禽類の保護団体「ワールド・バード・サンクチュアリ(World Bird Sanctuary)」が救助し、懸命な治療と7度にわたる大手術を行いました。

そしてこのほど、ハクトウワシは大きく回復に向かっており、クチバシの再生も良好であると同団体が報告しています。

目次

  • 銃撃でクチバシが千切れかけていた
  • クチバシの再生が確認される!

銃撃でクチバシが千切れかけていた

2024年7月11日、米国中部ミズーリ州ビエナの道路脇で、顔に明らかな外傷を負ったオスのハクトウワシが発見されました。

後に「ハクトウワシ24-390(Bald Eagle 24-390)」と命名され、ワールド・バード・サンクチュアリの研究者たちは単に「390」との愛称で呼んでいます。

390はクチバシの大部分と左の翼に深刻な損傷を負っていました。

傷のパターンと金属片の検出から、原因は銃撃によるものと判明しています。

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銃撃を受けた390/ Credit:World Bird Sanctuary

搬送後、緊急での手術が実施され、クチバシの骨折部分に8本の金属製クロスピンが固定されました。

クチバシは「ケラチン」というタンパク質からできており、人間の爪とや毛髪と同様に常に再生を続けています。

しかし390の場合、ケラチンの成長床が損傷していたことに加え、クチバシの土台となる骨も大きく欠損していたため、再生の見込みは不透明でした。

実際、最初のケガによってその骨の一部が大きく失われており、外側部分に栄養を運ぶ組織や血流が制限されていたといいます。

その後、約9カ月の間に7回の手術と数えきれないほどの洗浄処置が行われ、感染症や骨の癒合不全といったリスクに細心の注意が払われました。

懸命の治療の甲斐もあり、クチバシに取り付けられた外部サポートは取り外され、再生しきれていないクチバシの欠損部には歯科用アクリルが装着されています。

クチバシの再生が確認される!

390のケアにおいて最も重要とされたのが、栄養とストレス管理でした。

390のような鳥のケラチンの再生を促すためには、良好な栄養状態とストレスの少ない環境が最も重要です。

「ストレスはクチバシの成長を妨げます。動物が“生き延びるためのモード”に入ると、余分なエネルギーがストレス対処に使われ、クチバシの再生に回すエネルギーがなくなってしまうからです」と同団体のキラ・クレベ(Kira Klebe)氏は述べています。

390には猛禽類専用のビタミンやカルシウムサプリメントが与えられ、栄養がクチバシの再生にも使われるように調整されています。

また、2025年2月以降は施設内でも最大規模のリハビリ用飼育ケージに移され、他のハクトウワシと交流しながらも、人間との接触を最小限に抑えた静かな環境が整えられました。

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再生が確認されたクチバシ/ Credit:World Bird Sanctuary(Facebook)

そして2025年4月5日、ついにクチバシの右側にケラチンの再生が確認され始めたのです。

最初に治癒した部位から少し粗い状態で成長が始まっており、今後はドリル工具で形を整えながら自然なクチバシに近づけていく方針です。

完全な再生にはまだ時間がかかる見込みであり、野生への復帰にはあと1年のケアが必要とされています。

骨の治癒が終わり、ケラチンの成長も始まった今、あとは基本的に“待つ”段階に入りました。

スタッフは古いケラチンがどう磨耗していくかを注意深く観察しながらも、できるだけ手を出さず、ストレスを避けるようにしています。

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参考文献

Bald eagle’s beak healing following gunshot wound
https://www.popsci.com/environment/bald-eagle-healing-gunshot/

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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