水槽で飼っていた金魚を「広い世界で自由に」と思って川や湖に放したことはありませんか?
しかしその善意が実は深刻な環境問題を引き起こすかもしれません。
これまでの研究で、野生に放たれた金魚は高度な適応能力で爆発的に増殖し、生態系に深刻な影響を与えることがわかっているのです。
さらに金魚は無尽蔵の食欲を持っており、水槽のように住まいに制限がないことから、とんでもないデカさへと変貌します。
もはやそうなると、かわいい金魚ではなく、生態系を破壊するモンスターと化すのです。
目次
- 金魚を野放しにすると「全長50センチ」になる⁈
- 「金魚×コイ」のハイブリッド種も誕生している
金魚を野放しにすると「全長50センチ」になる⁈
私たちが一般的に飼っている金魚は10センチ程度の小さな魚ですが、野生に放たれると50センチ以上の巨大なサイズに成長することがあります。
これは水槽の限られた環境ではなく、広い湖や川に放たれたことで成長が加速するためです。
実際に、アメリカ合衆国魚類野生生物局(FWS)が、北米にある五大湖の一つ「エリー湖」で行った調査では、通常の金魚とは比べものにならないほど大きな個体が確認されています。
こちらが実際に確認されたモンスター金魚の姿です。

また金魚は水中の食物を大量に食べる「底なしの食欲」を持っており、在来種の魚の餌を奪ったり、産卵場所を荒らしたりしてしまいます。
さらに問題なのは、金魚が水質に与える悪影響です。
金魚は湖や川の底を掘り返してしまう習性があり、その結果、水中の堆積物が舞い上がって濁った水になってしまいます。
この濁りが光の透過を妨げ、藻類が異常繁殖する原因になります。
こうした現象は「アオコ(有害藻類ブルーム)」と呼ばれ、水中の酸素不足を引き起こし、他の生物の生存を脅かすのです。
特に五大湖などの環境においては、こうした藻類の異常発生が水産業や観光業にも大きな影響を与えています。
加えて、金魚は在来のコイと交配して、新たなハイブリッドを生み出すのです。
「金魚×コイ」のハイブリッド種も誕生している
この問題を解明するため、カナダの研究チームは五大湖の一つ「オンタリオ湖」で野生化した金魚の行動を追跡しました。
研究者たちは2017年から2018年にかけて、19匹の成体の金魚を捕獲し、それぞれに小型の発信機を埋め込みました。
この発信機を用いて、金魚がどこへ移動するのかをリアルタイムで追跡したのです。
調査の結果、金魚は水温が約10℃になると産卵場所へ移動し、大量に繁殖することがわかりました。
これにより、金魚がどの時期にどの場所へ移動するのかが特定され、環境保護当局が効率的に駆除を行うための重要なデータが得られました。
さらにこの研究によって、金魚が在来のコイと交配し、新たなハイブリッド種を生み出していることも判明しました。
このハイブリッド種はより大型で、さらに環境への影響が大きいため、問題はさらに深刻化しています。

ですから、もし金魚が家で飼えなくなったとしたら、野生に放すのではなく、次のような方法を検討してください。
・友人や知人など、他の飼い主を探す
・学校や水族館へ寄付する
・購入したペットショップに相談して、引き取ってもらえるようならお願いする
・金魚の里親探しができるオンラインコミュニティを活用する
さらに野放しにしてはいけないのは金魚だけでなく、金魚を飼っていた水槽内の水草もです。
外来種の水草が野生に放たれると、金魚と同じように異常繁殖して、在来の生態系に悪影響を及ぼすことがあります。
そのため、不要になった水草を処分する際は、密閉した袋に入れて可燃ごみとして捨てるか、適切な処理方法を確認してください。
私たちにとっては小さくてかわいいペットの金魚も、一歩間違えれば生態系に深刻な影響を及ぼす「モンスター」となってしまうのです。
参考文献
Please stop releasing pet goldfish into the wild
https://www.popsci.com/environment/invasive-goldfish/
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部