鮮やかな青色の羽をもつ「アオコンゴウインコ」。
かつてブラジル北東部の乾燥した森林に生息していたこの希少なインコは、すでに野生絶滅種(Extinct in the Wild)となっています。
そんな“青い宝石”の絶滅危惧種に、世界から注目が集まる新たなニュースが舞い込みました。
ベルギーのペアリダイザ動物園で、ついに奇跡の1羽――アオコンゴウインコの雛が孵化したのです。
この小さな命の誕生は、絶滅の瀬戸際に立たされた種の未来を大きく切り開くものとして、専門家たちにとっても「本物の奇跡」と呼ばれています。
目次
- 100回の失敗と「101回目の奇跡」
- 野生復帰への道のりと、世界が見守る“青い宝石”の未来
100回の失敗と「101回目の奇跡」
「アオコンゴウインコ(学名:Cyanopsitta spixii)」は、その美しい青色と希少性から、長年にわたり世界的な保護活動の象徴とされてきました。
しかし野生下での個体数は減少の一途をたどり、2000年には最後の野生個体が確認されて以降、事実上の絶滅が宣言されました。
現在、アオコンゴウインコは各国の動物園や保護施設のみにわずかに生き残っており、その生存は繁殖プログラムに託されています。

ベルギーのペアリダイザ動物園も、世界的な繁殖ネットワークの一員です。
同園ではこれまで、12羽のアオコンゴウインコが非公開の保護施設で慎重に飼育されてきました。
彼らは極めて繊細で人間を警戒しやすく、ストレスが少しでも加わると繁殖が難しくなるという問題を抱えています。
導入から数年間で産まれた卵はなんと100個。
しかし、いずれも受精せず、孵化には至りませんでした。
長い時間と努力が積み重ねられるなか、誰もが次第に期待を失いかけていました。
ところが今年9月、ついに転機が訪れます。
101個目の卵が奇跡的に受精し、2025年9月21日、1羽の雛が誕生したのです。
【こちらが実際に孵化した雛の画像】
この成功の裏には、最近の給餌内容の改善や、経験豊富な専門スタッフによる徹底した管理があったといいます。
孵化直前には、親鳥の育児経験不足によるリスクを避けるため、卵は専門チームにより回収されました。
その後、24時間体制で2時間ごとに手作業で給餌され、細心の注意が払われています。
生まれたばかりの雛はまだ青い羽を持っていませんが、その命は今、世界中の希望そのものです。
「2時間ごとの給餌は体力的にも大変ですが、世界一絶滅の危機にある種の未来を手の中で守っている実感が私たちの原動力になっています」と、飼育員のトーマス・ビアジ氏は語ります。
野生復帰への道のりと、世界が見守る“青い宝石”の未来
アオコンゴウインコは、ブラジルの北東部に広がるカーティンガと呼ばれる乾燥林を本来の生息地としていました。
ところが開発や密猟によって激減し、ついにIUCN(国際自然保護連合)から野生絶滅種に認定されます。
こうした背景のなか、世界各国の動物園や保護団体が力を合わせ、遺伝的多様性を確保した個体群の再生と、将来的な野生復帰を目指してきました。
ペアリダイザ動物園も、ブラジルのICMBio(シコ・メンデス生物多様性保全研究所)やサンパウロ動物園などと連携し、計画的な繁殖プログラムを推進しています。
2022年には、ブラジルの野生下にアオコンゴウインコを再導入するプログラムが始動し、いくつかの個体が実際に自然へと放鳥されました。
しかしこのプロジェクトは十分な継続的支援が得られず、一時的に中断されるなど課題も残ります。
【誕生した奇跡の雛に餌やりをしている様子がこちら】
今回誕生した雛は、野生に戻されることはありませんが、今後の繁殖計画の“要”として、さらに多くのヒナ誕生や遺伝的多様性の維持に貢献する存在となります。
なお、ペアリダイザ動物園で繁殖計画に参加しているアオコンゴウインコは一般公開されておらず、人為的なストレスを最小限に抑えるよう、細心の注意が払われています。
現在も12羽が非公開エリアで飼育されており、繁殖成功への道のりは決して平坦ではありません。
それでも、100回の失敗の先に現れた「101回目の奇跡」は、科学者や保護関係者だけでなく、世界中の人々に希望と勇気を与えています。
参考文献
Extinct In the Wild, An Incredibly Rare Spix’s Macaw Chick Hatches In New Hope For Species
https://www.iflscience.com/extinct-in-the-wild-an-incredibly-rare-spixs-macaw-chick-hatches-in-new-hope-for-species-81167
The first Spix’s Macaw born at Pairi Daiza.
https://pairi-daiza.prezly.com/the-first-spixs-macaw-born-at-pairi-daiza
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部