モフモフで可愛らしい野生の猫「マヌルネコ」が標高5000メートル近くのヒマラヤで発見されました。
WWF-India(世界自然保護基金インド支部)は、2025年9月、アルナーチャル・プラデーシュ州の高地で、マヌルネコ(Otocolobus manul, 英名:Pallas’s cat)がカメラトラップで撮影されたことを発表したのです。
これは同州で初となる、公式な写真記録です。
目次
- モフモフで可愛い「マヌルネコ」とは?
- 標高4992mの雪山でマヌルネコが発見される
モフモフで可愛い「マヌルネコ」とは?
マヌルネコ(Otocolobus manul, 英名:Pallas’s cat)は、ふわふわとした長い毛並みと丸い顔つきが特徴的な、野生の小型ネコ科動物です。
学名の「manul」はモンゴル語に由来し、英名は18世紀の博物学者ピーター・パラスにちなんでいます。
体長は約46〜65センチ、体重は2.5〜4.5キロほど。厚い毛皮と短い足で、寒冷な高地や岩場での生活に適応しています。
目は黄色く、横に広がった小さな耳、ユニークな“つぶれ顔”が印象的です。
このマヌルネコは、中央アジアからモンゴル、中国内陸部、ロシア南部など、ユーラシア大陸の乾燥したステップ地帯や高原、標高3000〜4000メートルの山岳地帯を主な生息地としてきました。
食性は肉食で、主にピカ(ナキウサギ)や小型哺乳類、鳥、昆虫などを捕食します。
日本の動物園でも人気が高く、その“もふもふ感”から「世界一かわいい野生ネコ」と評されることもしばしばです。
一方で、このアルナーチャル・プラデーシュ州での生息については、地元民の目撃談や“推定分布”があるだけで、写真などによる公式な記録はありませんでした。
特に、ヒマラヤ東部の高標高地は、厳しい気候と険しい地形のため、調査自体が難しく、世界でも未踏の生物多様性ホットスポットとなっていました。
そんな中、WWF-Indiaと現地の研究者、インド森林局による共同プロジェクトが始動。
調査対象となったのは、インド北東部アルナーチャル・プラデーシュ州の標高4200メートルを超える高地の草原地帯です。
調査は2024年7月から9月にかけて行われ、合計136台のカメラトラップ(赤外線センサー付きの自動撮影カメラ)が83地点に設置されました。
これらのカメラは、過酷な高地環境の中で8か月以上稼働し続け、多様な野生動物の記録が蓄積されました。
この調査では、ヒョウ(Panthera pardus)、ウンピョウ(Neofelis nebulosa)、マーブルキャット(Pardofelis marmorata)など、ネコ科の野生動物の存在が記録されました。
そして特に注目されたのは、マヌルネコの発見です。(Facebookの投稿と画像あり)
標高4992mの雪山でマヌルネコが発見される
2024年の調査後、WWFインディアの調査チームは設置したカメラトラップを回収し、膨大な画像データを解析していました。
その中に、「特徴的な丸い顔、厚い毛皮、短い足を持つマヌルネコ」が、標高4992メートルの雪の中に立つ姿がはっきりと記録されていました。
今回の報告は、これまで目撃談や予測にとどまっていたアルナーチャル・プラデーシュ州での分布に、初めて写真という確かな裏付けを与えました。
ヒマラヤ東部での生息域が、地図上ではっきりと示された形になります。
しかも、標高約5000メートルという極限の環境に適応し、複数の野生ネコ科動物と共存しているという事実は、世界的にも大きな注目を集めました。
マヌルネコはIUCNレッドリストでは「低危険種(Least Concern)」と分類されていますが、野生下での研究例は少なく、その生態や分布の全容は長らく謎に包まれていました。
今回の発見は、この地域での保全計画や今後の調査の基盤となる貴重な情報です。
野生ネコ科の多様性が高地の生態系の健康を示すバロメーターとなり、将来の環境変化へのモニタリングや国際的な保護活動にも大きな影響を与えるでしょう。
WWF-Indiaの公式Facebookでも、今回の成果について「アルナーチャル・プラデーシュ州でマヌルネコが初めて記録されたもの」とコメントしており、続けて、この証拠が、極限の環境で生きる野生ネコ科たちの多様性と適応力を示すものであることを強調しています。
マヌルネコは、いまもヒマラヤの高地で静かに息づいています。
地球には、私たち人間がまだ知らない生命の物語が、きっとたくさん隠されているのかもしれません。
参考文献
FIRST PHOTOGRAPHIC RECORD OF PALLAS’S CAT AND FIVE OTHER WILD CATS ABOVE 4200 METRES CAPTURED DURING A GROUNDBREAKING SURVEY IN ARUNACHAL PRADESH
https://www.wwfindia.org/?27922/first-photographic%20-record-of-pallass-cat
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

