遠方の友人とのつながりが、心の健康のセーフティネットとなるかもしれません。
ハンガリー経済地域研究センター(HUN-REN)はこのほど、友人の地理的広がりとメンタルヘルスとの関連性を調査。
その結果、これまで知られていたように、地元での密につながった友人グループがいる人はうつ傾向が低いことが確認されました。
しかしそれだけでなく、今回の研究では、遠方の町に住む友人グループとつながりがあると、うつ病の発症リスクがさらに低くなる可能性が示されたのです。
一体なぜでしょうか?
研究の詳細は2024年12月6日付で科学雑誌『Science Advances』に掲載されています。
目次
- 遠距離に友人が多いと、うつリスクが大きく減少⁈
- なぜ遠くにいる友人が「心の支え」になるのか?
遠距離に友人が多いと、うつリスクが大きく減少⁈
私たちは普段、身近な人とのつながりを「安心感」や「心の支え」として大切にしています。
実際、これまでの多くの研究では、近くに住んでいる親密な友人や家族との絆、つまり「地元の結束」が、うつ病や不安障害の予防に役立つことが示されてきました。
しかし一方で、現代ではスマホやパソコン、SNSなどを通じて、物理的には遠く離れた人とも気軽につながることができるようになっています。
果たして、こうした「地理的に広がりのあるネットワーク」は、精神的な健康にどう影響するのでしょうか?
これまで、この点については小規模な調査しか行われておらず、明確な答えは出ていませんでした。
この問いを確かめるため、研究者たちはハンガリー在住の一般男女を対象とした調査を行いました。

研究チームは、ハンガリーの小都市に住む27万人超の住民について、抗うつ薬の使用履歴(2011年〜2015年)と、ハンガリーのSNS「iWiW(International Who is Who)」における交友関係のデータをリンクさせました。
iWiWはかつてハンガリーでFacebookに匹敵する人気を誇ったSNSで、2011年時点で人口の約30%にあたる280万人が利用していました。(2014年にサービスは正式に終了している)
チームはまず、地元でのつながりの強さ(Local Cohesion:LC)と、遠方に住む友人とのつながりの多様性(Spatial Diversity:SD)という2つの指標を定義しました。
その上で、これらの指標と抗うつ薬の使用状況との関連を統計的に分析。
その結果、次のようなことが明らかになりました。
・地元でのつながりが強い人ほど、抗うつ薬の使用率が低く、うつリスクも下がっていた
・しかしそれ以上に、遠方にいる友人とのつながりが多様な人ほど、抗うつ薬の使用率が明確に低くなっていた
・しかも遠方にいる友人とのつながりが多様な人は、数年後の薬の処方量も減少しており、うつリスクの低下の効果が長続きしていた
さらに、これらの傾向は若年層ほどより強く見られました。
また一方で、近所付き合いが密でも、遠方とのつながりが乏しい場合には、メンタルヘルスへの保護効果がわずかに弱まる可能性も示唆されました。
以上の結果は、私たちが思っていた以上に、「地元」だけでない地理的に多様なネットワークが心の健康に寄与することを意味しています。
では、なぜ遠方にいる友人がメンタルヘルスを改善してくれるのでしょうか?
なぜ遠くにいる友人が「心の支え」になるのか?

この研究は因果関係を証明したものではありませんが、社会的ネットワークの地理的広がりとメンタルヘルスとの関連について、かつてない規模での相関を示した点に大きな意義があります。
孤立しやすい地方に住む人々にとって、SNSを通じた遠方の人とのつながりは、まさに「心の避難所」となっているのかもしれません。
研究者たちは「多様なコミュニティに関わることが孤立を防ぎ、心のバランスを保つ助けになる」と指摘しています。
特に、地元の人間関係はときに濃密すぎて、逆にプレッシャーや監視のように感じられることがあります。
それに比べて、遠方の友人とのつながりは一定の距離感を保ちながら相談できるため、心理的に「逃げ場」になりやすいのです。
加えて、遠方の友人から得られる情報は、日常圏にはない新しい出来事や機会の発見につながるきっかけにもなります。
こうした刺激は、日々の単調さや閉塞感からの脱却につながり、精神的な活力を高める要素になり得るのです。
これは「心の健康を改善するための人間関係は、近場にいる人だけに限らない」という新たな視点を提示しています。
チームは今後の課題として、ハンガリー以外の国々や、さらには友人関係の「質」がどのような影響の違いを与えるかを調査したいと考えています。
今回の発見は、誰にとっても「遠くにいる誰か」が思いのほか大切な存在になりうることを教えてくれます。
参考文献
People with more geographically diverse social networks are less likely to use antidepressants
https://www.psypost.org/people-with-more-geographically-diverse-social-networks-are-less-likely-to-use-antidepressants/
元論文
Sauna bathing in northern Sweden: results from the MONICA study 2022
https://doi.org/10.1080/22423982.2024.2419698
ライター
千野 真吾: 生物学出身のWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部