過去200年間で「人と自然とのつながり」は何%減少したのか?

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私たちは、かつてもっと自然と近しい生活を送っていました。

森を歩き、川のせせらぎを聞き、季節ごとの花や実りに心を動かされる。

そんな日常は、ごく当たり前のものでした。

しかし英ダービー大学(University of Derby)の最新研究により、「人と自然とのつながり」は過去200年で約61%も失われていたことが示されたのです。

その背景には、都市化の進行と世代を超えた価値観の変化という、見えにくい大きな流れがありました。

研究の詳細は2025年7月23日付で科学雑誌『Earth』に掲載されています。

目次

  • 産業革命から続く「自然とのつながり」の減少
  • 世代を超えて受け継がれる「断絶」の連鎖

産業革命から続く「自然とのつながり」の減少

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Credit: canva

研究チームは今回、1800年から2020年までの約220年間にわたり、人と自然の関係がどう変化してきたかを解析しました。

その結果、産業革命以降に進んだ都市化が、自然との接点を大幅に減らしたことが明らかになったのです。

都市化とは、人口が都市部に集中し、生活の舞台がコンクリートやアスファルトに覆われていく現象です。

1800年ごろ、都市部に住む人は全人口の1割にも満たなかったのが、現代では8割を超えています。

緑豊かな環境は少しずつ削られ、身近な自然を体験できる場所が減っていきました。

チームは「自然とのつながり」を数値化するため、ユニークな方法を採用しました。

それは過去200年分の書籍や文化資料に出てくる「自然関連の言葉」の頻度を調べるというものです。

「川(river)」「花(blossom)」「苔(moss)」といった言葉がどれくらい使われてきたかを分析することで、人々の生活や文化が自然にどれほど向き合っていたかを推測できます。

この長期データを使い、都市化や環境変化と組み合わせてシミュレーションした結果、人と自然のつながりは200年間で61%以上も減少していたことが示唆されました。

これは単なる偶然や一時的な流行ではなく、長い時間をかけて積み重なった変化だったのです。

世代を超えて受け継がれる「断絶」の連鎖

さらに研究が明らかにしたのは、つながりの減少を加速させるもう一つの要因です。

それは「世代間伝達」と呼ばれる仕組みです。

簡単にいえば、親の自然とのつながりが弱ければ、その子どもも自然に親しみにくくなるということです。

現代の都市生活では、自然に触れる機会が少なくなっています。

その結果、自然と深く関わる体験を持たないまま大人になる人が増え、やがて親になったときに子どもへ伝えられる「自然の価値」も薄れてしまいます。

このようにして、断絶は世代から世代へと連鎖していくのです。

研究モデルによると、この世代間伝達の影響は非常に大きく、自然とのつながりの長期的な低下を説明する主要因となっていました。

一方で、人生の中で直接自然に触れる「体験の絶滅(extinction of experience)」の影響は、全体に比べれば補助的な役割にとどまっていたといいます。

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Credit: canva

つまり、自然の価値観は一度失われると、短期間で取り戻すのは難しく、回復には世代単位の時間が必要になるのです。

将来予測では、都市の緑地を大幅に増やすだけでは不十分で、子ども時代からの継続的な自然体験と親世代の関与が組み合わさって初めて、2050年以降に持続的な回復が見込めるとされました。

この研究が示す61%という数字は、単なる統計ではなく、私たちの暮らし方が変えてきた心の風景を表しています。

自然とのつながりは、環境を守る行動や心の健康にも深く関係しており、それを失うことは私たち自身の未来を失うことにもつながります。

もし次の世代に豊かな自然体験を残したいなら、街に緑を増やすだけでなく、家族や地域で自然と向き合う時間を増やすことが欠かせません。

200年かけて薄れてしまった「自然とのつながり」を、これからの200年で取り戻すことができるかどうかは、私たち一人ひとりの選択にかかっているのです。

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参考文献

Connection with nature sees dramatic decline over the last two centuries
https://phys.org/news/2025-08-nature-decline-centuries.html

元論文

Modelling Nature Connectedness Within Environmental Systems: Human-Nature Relationships from 1800 to 2020 and Beyond
https://doi.org/10.3390/earth6030082

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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