「週5日勤務は本当に最適なのか?」
そう疑問を抱いたことがある人にとって、今回の報告は朗報かもしれません。
米ボストンカレッジ(BC)などの研究チームが、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、アイルランド、ニュージーランドにまたがる141社・約2900人の社員を対象に、給与を減らさずに週4日勤務へ移行する試験を実施。
結果は驚くべきものでした。
ストレスは減り、心と体の健康状態は改善し、しかも生産性まで上がったというのです。
研究の詳細は2025年7月21日付で学術誌『Nature Human Behaviour』に掲載されています。
目次
- 週4日勤務で健康も生産性も「いいことづくし」
- 社員を追い込まなくても、成果は出る
週4日勤務で健康も生産性も「いいことづくし」
この実験は、非営利団体「4 Day Week Global(4日勤務グローバル)」が主導し、ボストンカレッジのチームによって実施されました。
参加企業は週5日・40時間労働から、週4日・32時間の労働に移行。
給与や福利厚生はそのままで、6か月にわたってこの新制度を運用しました。
結果、従業員の心身の状態は目に見えて改善しました。
具体的には、睡眠の質が向上し、疲労感が減少し、燃え尽き症候群のリスクも大幅に下がったのです。

中でも注目すべきは「自由時間」の活用です。
多くの人が、通院や買い物といった私用を週末ではなく「もう1つの休日」に回すことができ、週末の時間を本当の休息や趣味、家族との時間に使えるようになりました。
これにより、精神的にも身体的にも余裕が生まれ、全体的な生活の満足度が上昇。
驚くべきことに、企業側も生産性や業績の低下はほとんど見られず、むしろ収益が増加した企業もありました。
無駄な会議や非効率な業務を削減し、電話やチャットなどのツールで業務連携を効率化したことが大きな要因とされています。
さらに労働時間の削減幅が大きい社員ほど、健康改善の効果も顕著に表れたとのことです。
社員を追い込まなくても、成果は出る
学術研究では通常、仮説のいくつかが裏切られることは珍しくありません。
しかし今回の研究でボストンカレッジのウェン・ファン准教授は「すべてが事前の予想や期待通りに動いた」と語ります。
働く時間が減った分、社員がその分だけ必死に働いたかというと、そうではありません。
それでも業績は下がらず、企業の基本的な経営指標も維持されていました。
つまり、社員を追い込まずとも、結果は出るということが明らかになったのです。

この現象の背景には「やらされ仕事」の削減があります。
会議に費やされていた時間、社内手続きや報告のための無駄な業務が見直され、「本当に必要な仕事だけに集中できる環境」が整ったのです。
結果として、企業は医療費や離職率を削減でき、新たな人材確保にもつながると報告されています。
実際、週4日勤務に移行した企業の誰一人として「もう戻したい」とは答えなかったといいます。
もちろん、全業種に一律に当てはまるわけではありません。
製造業など、時間あたりの成果が重視される業種では課題が残ります。
それでも「働き方を見直すことで得られる恩恵」は確かに存在し、多くの業種で応用可能なヒントを与えてくれる研究となりました。
現代の多くの仕事では週5日勤務が当たり前であり、中には残業や週6日勤務など、それ以上に働いている人も多くいます。
しかし実際は、もっと働く日数を減らしても会社に損失はなく、むしろ社員の健康や生産性を高める方法として「週4日勤務」は適切な選択肢なのかもしれません。
参考文献
Four-day work week benefits workers and employers, new study shows
https://www.popsci.com/science/four-day-work-week-study/
Moving four-ward?
https://www.bc.edu/bc-web/bcnews/nation-world-society/sociology/-study-pilots-four-day-work-week.html
元論文
Work time reduction via a 4-day workweek finds improvements in workers’ well-being
https://doi.org/10.1038/s41562-025-02259-6
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部