従来の風力発電の仕組みは、「ハネで風を受けてタービンを回転させる」というもの。いわゆる「風車」がこれに該当します。
風力発電はクリーンな電力を生み出しますが、設置場所が限られていたり、鳥たちがハネの犠牲になったりします。
そこでスペインの企業「Vortex Bladeless」は、ハネなしで風力発電する新タービンを考案しました。
どこにでも設置でき、簡単に風から電力を生みだす革新的な装置を開発したのです。
目次
- ブレードなしで風力発電する
- 新タービンは風の渦による振動を増幅させている
ブレードなしで風力発電する

開発された風力発電装置は、一見、従来の風力発電から大切な要素をすべて取り除いたように見えます。
ただ白い柱が立っているだけなのです。
ところが、柱の内部には風の振動によって発電する装置が組み込まれており、1つの風力タービンとして機能します。
稼働部品が少ないため、メンテナンスはほとんど必要ありません。
Vortex Bladeless社によると、「ギア、ブレーキ、ベアリング、シャフトなどはありません。潤滑油も必要とせず、摩耗で消耗する部分もありません」とのことです。
また非常に軽量で重心が低いため、従来のハネ付きタービンのように深くまでアンカーを打ち込む必要がありません。

そのため新タービンは従来よりも約30%安く発電できるとのこと。これは設置コストが低く、メンテナンスが最小限で済むことが大きな要因となっています。
さらに騒音もほとんど発生せず、野生動物への被害もありません。ハネがないので、どんな場所にも簡単に設置できます。
ただし、新タービンが従来の風力発電に取って代わるわけではありません。
都市部や住宅地など、これまで風力発電を導入できなかった環境に設置することが本来の目的なのです。
新タービンは風の渦による振動を増幅させている
ハネなしの新タービンは振動で発電します。
断面図から分かるように、新タービンは外筒と内部の弾性ロッドで成り立っています。

まず外筒が風の力を受けて、弾性ロッドと共に左右に振動します。
そしてこのとき、固定されたコアとの間で反復運動が発生。ここにコイルと磁石を組み込むことで発電が可能になるのです。
しかし、柱のように真っすぐな外筒では、風の力で振動するのは難しいように思えます。
ここにはどのような原理が働いているのでしょうか?
Vortex Bladeless社によると、新タービンは「渦励振(うずれいしん)」という現象を利用しているとのこと。
風などの流れのなかに物体を置くと、その後方には渦が周期的に発生します。そして渦の力によって物体が振動するのです。

もちろん、これだけでは物体が少し振動するだけです。
ところが新タービンは渦の周波数と物体の振動周波数をあえて近づけることで、その力を増幅させています。
もともとこの共振現象は設計の際に「避けるべき要素」として考慮されます。
なぜならこれによって風の抵抗を受けにくい構造物でも大きく振動し、損壊してしまうおそれがあるからです。
ところが風力発電においては、逆にメリットとなります。省スペースでコンパクトな装置でも大きく振動させて発電できるのです。
現在、Vortex Bladeless社はより大きなタービンを作るために産業パートナーを探しています。
今後の進展によっては、ブレードのないタービンが普及する可能性もあります。「近くの公園で新タービンが振動している」なんてこともあるかもしれませんね。
参考文献
Can we get wind power without the blades or the actual wind? These startups believe so
https://www.zmescience.com/science/can-we-get-wind-power-without-the-blades-or-the-actual-wind-these-startups-believe-so/
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部