激しい筋トレやランニングだけが「運動」だと思っていませんか?
しかし近年、海外の研究者やアスリートの間で注目されているのが「ゾーンゼロ」と呼ばれる超軽い運動です。
心拍数をほとんど上げず、会話を楽しみながら続けられるようなレベルの活動でも、驚くほど多くの健康効果があることがわかってきています。
目次
- ゾーンゼロ運動とはなにか?
- なぜゾーンゼロ運動が効くのか?
ゾーンゼロ運動とはなにか?
フィットネスの世界では、運動強度を「心拍数ゾーン」で区分することがあります。
一般的に「ゾーン1」と呼ばれるのは、最大心拍数の50〜60%程度で、軽めのジョギングや早歩きが目安とされます。
一方で「ゾーンゼロ運動」とは、このゾーン1よりもさらに低い強度の心拍活動を指す言葉です。
研究者の間でもまだ正式な定義は固まっていませんが、「ゾーン1未満」あるいは「アクティブリカバリー(積極的休養)」と表現されることもあります。
ゾーンゼロ運動は、文字通り「無理のない動き」で構成されています。
たとえば、ゆったりとした散歩、庭いじり、簡単なストレッチ、軽いヨガなど。
どれも汗をかくほどではなく、息が上がることもありません。
それなのに、続けることで心身に良い変化をもたらすと注目されているのです。
この考え方は「自分を追い込むほど成果が出る」という従来のフィットネス文化に一石を投じています。
ジムの高強度トレーニングや「ノーペイン・ノーゲイン(痛みなくして成果なし)」といったスローガンとは真逆のアプローチなのです。
なぜゾーンゼロ運動が効くのか?
研究や観察によると、ゾーンゼロ運動にはいくつかの健康効果が確認されています。
まず、血流の改善や血糖値の調整といった基礎的な身体機能のサポートが挙げられます。
毎日ゆっくりと歩くだけでも、心血管疾患のリスクを下げられる可能性があるのです。
次に、精神的なメリットがあります。
仕事や家庭、ストレスに追われる現代人にとって、激しい運動はむしろ負担に感じることがあります。
しかしゾーンゼロ運動ならエネルギーを消耗することなく緊張を和らげ、気持ちを落ち着ける効果があります。
仕事終わりにソファへ倒れ込む代わりに、30分の静かな散歩を取り入れることで、むしろ心身が回復することもあります。
さらに重要なのが「継続性」です。
多くの人が運動習慣に挫折するのは、最初に掲げる目標が高すぎるからです。
ゾーンゼロ運動はハードルが低く、日常に組み込みやすいため、長期的に続けやすいのです。
その結果、睡眠の質の改善、気分の安定、慢性疾患リスクの低下といった効果が、数か月から数年にわたって積み重なっていきます。
もちろん限界もあります。
マラソンを走りたい、筋力を大幅に向上させたいといった目標を持つ人には、ゾーンゼロだけでは不十分です。
体を強くするには、ある程度の強度を伴う運動が必要です。
しかし「激しい運動をするか、まったくしないか」という二者択一ではなく、その中間に位置する選択肢としてゾーンゼロ運動を取り入れることに意味があります。

スポーツ科学の専門家の間でも、「ゾーンゼロ」という名称は必ずしも学術的に定着しているわけではありません。
しかし、世間に浸透しつつあるのは、この名前が「無理をしない運動」の精神をうまく表現しているからでしょう。
高価な器具や最新のウェアラブル端末は必要なく、ただ「楽に動き続ける」こと自体が効果を持つというシンプルさが、人々を惹きつけているのです。
現代社会では、多くの人が長時間パソコンの前に座り、気づけば1日の大半をほとんど動かずに過ごしています。
この「座りっぱなし習慣」こそが健康リスクを高めており、たとえ時々ハードな運動をしていても、その影響を完全に打ち消すことはできないと報告されています。
だからこそ、ゾーンゼロ運動のような「軽くても頻度の高い活動」を日常に取り入れることが大切です。
息が切れるほどのトレーニングではなくても、確実に健康を支える力になってくれるのです。
参考文献
Zone Zero: The Surprising Health Benefits of Barely Exercising at All
https://www.sciencealert.com/zone-zero-the-surprising-health-benefits-of-barely-exercising-at-all
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部