中国の清華大学(Tsinghua University)を中心とした国際研究チームが、超新星爆発直後の「衝撃波」の姿を、なんと爆発後たった約1日という驚異的なスピードで、直接観測することに成功しました。
研究ではその様子が映像化されており、星が爆発する瞬間」は花火のような丸い形ではなく、上下の縦長をしている様子が示されています。
今回の発見は、大質量星がどのような仕組みで爆発に至るのかという天文学最大の謎を解き明かす大きな手がかりになると考えられています。
それにしても、なぜ星の最期の大爆発は、球ではなく縦長で始まったのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年11月12日に『Science Advances』にて発表されました。
目次
- 超新星爆発の衝撃波も花火のように球形なのか?
- 爆発の26時間後に捉えた超新星の形
超新星爆発の衝撃波も花火のように球形なのか?

「星は丸いもの」──ほとんどの人がこう思うでしょう。
実際、太陽を含む恒星は、生きている間は球形を保つ仕組みがしっかり働いています。
星は自らの重さ(重力)で中心に向かって潰れようとしますが、内部で核融合が起きることで熱や圧力を生み出し、それが外側に向かって星を膨らませようとする力になっているからです。
こうして重力と核融合が完璧なバランスを取ることで、星は美しい球形を保ち続けているのです。
しかし、星にも終わりが訪れます。
特に質量が大きな星は、核融合の燃料がなくなった時、バランスを崩してしまいます。
バランスが崩れると星の中心部が自分自身の重力に耐えられなくなり、一気に潰れます。
すると、中心部が潰れた反動で強烈な衝撃波が生まれ、星の内部から外に向かって爆発的に広がります。
これが、星の最後に起こる『超新星爆発』という大現象です。
こう聞くと、星の中心から起きる爆発だから、衝撃波も星の外側に向かって均等に広がるだろうと思うかもしれません。
でも、果たして本当にそうなのでしょうか?
星がその一生を通じてきれいな球形を保っているからといって、その最後の大爆発も「丸い形」で起きるとは限らないのです。
実はこれまで、超新星爆発が本当に丸いのか、それともいびつな形なのかについて、天文学者たちは長年にわたって議論を続けてきました。
一つの説は、「ニュートリノ」という小さな粒子が関係しているというものです。
星が崩壊するときに大量のニュートリノが放出されますが、このニュートリノが星の内部の衝撃波を不均等に加熱し、衝撃波が歪んでしまう可能性があるというのです。
もう一つの説は、星が爆発するとき、ジェットという非常に強力なガスの噴流が軸方向に吹き出してしまい、衝撃波が両極方向(つまり上下方向)に細長く伸びた爆発になるというものです。
ただし研究者たちは、この“ジェットで細長くなる説”が常に起きているとは限らず、星ごとに条件が違う可能性があることも指摘しています。
加えて天文学者たちはすでに、「超新星爆発はまったく球ではない」ことを示す間接的な証拠を得ています。
たとえば、超新星爆発のあとに残る『超新星残骸』というガス雲が複雑で歪んだ形をしていることがあります。
また、超新星爆発で生まれる中性子星という超高密度の天体は、爆発の反動で蹴り飛ばされるように猛烈な速度で移動することがあります。
これらの現象からも、星の最後の爆発が何らかの理由で均等な球状にはなっておらず、特定の方向に偏りが生じている可能性が高いと考えられてきました。
しかし、こうした観測から分かるのは「爆発が終わった後」の形だけです。
星がまさに爆発した直後にどんな形をしているのかは、直接観測するのが非常に難しいのです。
なぜ難しいのかというと、星の爆発が起きた瞬間、内部から噴き出す衝撃波が星の表面を突き破って光や物質が一気に宇宙へ飛び出す現象(ショックブレイクアウト)は、数時間から1日弱ほどで終わってしまうからです。
その直後には、星の外側にあるガスや塵などの物質と衝撃波が衝突し、本来の爆発の形はすぐに変化してしまいます。
そのため、星が爆発した直後の形を直接見ることは極めて難しく、天文学者は長い間、「最初の瞬間」の姿を観測するチャンスを待ち望んでいました。
超新星爆発は本当に球形なのか、それとも最初から歪んだ形なのか?
今回研究者たちは、この誰も答えを知らなかった「爆発直後の形」を直接捉えることに成功したのです。
爆発の26時間後に捉えた超新星の形

チャンスは突然やって来ました。
2024年4月10日、地球からおよそ2200万光年(論文値では7.24±0.20 Mpc=約2360万光年)の彼方にある銀河NGC 3621で、ひとつの星が爆裂しました。
この爆発こそ、超新星SN 2024ggiです。
爆発した星は巨大な赤色超巨星で、太陽の12〜15倍の重さと500倍もの大きさをもつ“宇宙の怪物”のような存在でした。
こうした星は寿命を迎えると内側が崩れ、最後に一気に外側を吹き飛ばします。
その瞬間が、今回の観測にとっての舞台でした。
発見からわずか26時間後、研究チームはすぐに世界最大級の望遠鏡VLTを使ってSN 2024ggiを狙います。

このスピードは異例で、ちょうど爆発の「生まれたてホヤホヤ」の光がまだ残っている時間帯でした。
いわば、“できたての宇宙花火の形”を真正面から見に行くような挑戦です。
とはいえ、遠くの超新星は望遠鏡で見える姿が「ただの点」にしか見えません。
点の光から「形」を読み取れと言われても無茶な話に思えます。
ここで研究者たちが使った手法が、偏光(へんこう)という光の「ゆらぎの向き」を読む技です。
光には波として揺れる方向があり、星の表面や周囲で散乱されると、その揺れ方が偏ることがあります。
完全な球形の爆発なら、この“ゆらぎの向き”は全方向で打ち消し合い、偏光はゼロになります。
しかし、もし爆発に少しでも片寄りがあれば、その方向に揺れが残ります。
つまり偏光は、遠く離れた爆発の「影絵」を運んでくるのです。
研究チームは、この偏光の向きを波長ごとに丁寧に調べ、光がたどった“爆発の通り道”を逆算しました。
すると、爆発の初期の瞬間に、驚くべき事実が浮かび上がります。
最初の衝撃は、期待されたような丸い光の球ではありませんでした。
むしろ、縦に少し伸びた楕円形をした縦長の形だったのです。
つまり爆発は、初めから「ある方向へ少し強く吹き出すタイプ」だったのです。
なぜ爆発に軸があるのか?
爆発に軸が存在する理由としては、回転、磁場、対流、燃え方のムラのような違いがコア崩壊、圧縮、反発にともなって劇的に増幅され、ある方向にはちょっと強く、ある方向にはちょっと弱いという状態が出現します。これがそのまま爆発の軸となると考えられます。
では、時間が進むとどうなるのでしょうか。
星の周囲には、過去に放出されたガスや塵が漂っています。
衝撃波がこれらにぶつかると、爆発の形は簡単に乱れてしまいます。
実際、観測でも爆発が周囲のガスと衝突し始めると、最初の細長い形は押しつぶされたように平らになっていきました。
ところが、その“押しつぶされ方”にも法則があったのです。
形が変わっても、偏光が示す爆発の「軸」だけはおおむね保たれたままでした。
つまり、星の内部から吹き出した最初の向きと、外側に広がった後の向きが大きくはずれずに整合していたのです。
この一貫性は、論文中の偏光データでもはっきり示されています。
内部がどれほど複雑でも、ひとつの大きな軸が爆発の向きを支配していたことになります。
先に述べたように、超新星爆発の「最初の瞬間」はこれまで人類がほとんど捕まえられなかった現象です。
だからこそ今回のSN 2024ggiのように、爆発から約1日という超早期観測は、星の最期の秘密を生のまま解読する貴重な鍵になったのです。
この発見が示すのは、大質量星の爆発メカニズムには思いのほか明確な方向性(軸対称性)が存在する可能性があるという点です。
かつて主流だった「球形に近い爆発」モデルでは今回の観測結果を十分に説明できず、従来の単純な想定では合わない部分があることがうかがえます。
これは、超新星が重元素を宇宙にばら撒き銀河の進化に影響を与えるプロセスを理解する上でも重要な前進です。
爆発の形が分かれば、星がどのようにコア崩壊しエネルギーを運んでいるかという内部過程を逆算できます。
それによって、将来的に超新星爆発の起こり方や頻度、放出される元素の分布などについても、より正確な予測やシミュレーションができるようになると期待されています。
宇宙で起こる壮大な星の最期を理解することは、私たち自身の太陽系や生命の起源を考える上でも重要なピースと言えるでしょう。
最後に、この成果は人類の好奇心とチームワークの勝利でもありました。
超新星発見からわずか1日で世界中の望遠鏡と人員が連携して観測を成し遂げたことは、科学の機動力を示しています。
研究チームの一人、ESOのフェルディナンド・パタット氏は「今回の発見は私たちの星の爆発観を塗り替えただけでなく、国境を超えた協力と迅速な行動が宇宙の謎を解き明かす鍵になることを示しました」と強調しています。
参考文献
Unique shape of star’s explosion revealed just a day after detection
https://www.eso.org/public/news/eso2520/
元論文
An axisymmetric shock breakout indicated by prompt polarized emission from the type II supernova 2024ggi
https://doi.org/10.1126/sciadv.adx2925
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

