毎日コーヒーを飲む人にとって、「どうすればもっと美味しいコーヒーが淹れられるのか?」という問いは永遠のテーマかもしれません。
そんな中、米ペンシルベニア大学(UPenn)の研究チームが、豆の量を増やさなくても、お湯の注ぎ方をちょっと変えるだけで、いつもより濃厚なコーヒーが抽出できるドリップ方法を発見したと発表しました。
これには新しい道具などは一切必要ありません。
では、その新たなハンドドリップ方法を見てみましょう。
研究の詳細は2025年4月8日付で学術誌『Physics of Fluids』に掲載されています。
目次
- 濃厚なコーヒーを抽出する方法とは?
- 環境にも優しいドリップ方法
濃厚なコーヒーを抽出する方法とは?
濃厚で美味しいコーヒーを淹れるには、使う豆の種類や分量、豆の挽き方から、ドリップ用の容器を事前に温めておくなど、工夫できるポイントがたくさんあります。
そして何より重要になるのが「お湯の注ぎ方」ですよね。
特に自分の手でコーヒーを抽出するハンドドリップでは「お湯を細く、ゆっくりと、”の”の字を描くように注ぐ」のがいいとよくいわれます。
確かにこの方法でも十分に美味しいコーヒーは淹れられるでしょう。
しかし研究チームは今回、同じ豆の量でもさらに濃厚なコーヒーを抽出できるハンドドリップの方法を物理学的に発見しました。

チームはまず、コーヒー粉の中でお湯がどう動いているのかを可視化するための実験を実施。
実際のコーヒー粉では内部の流れが見えないため、代わりに透明なシリカ粒子を用いて、ガラス製の円錐フィルターに詰めて観察。
そこにレーザー光とハイスピードカメラを組み合わせ、水流が注がれる際の粒子の動きを詳細に記録しました(下の動画を参照)。
お湯を注ぐのに使われたのは、一般的なグースネックケトルです。
チームはお湯を様々な高さから注ぎ、水流の太さや勢いの違いが粒子の動き、すなわち粉とお湯との混ざり方にどう影響するかを調べました。
その結果、同じ豆の量でも最も濃厚なコーヒーを抽出するには「ケトルを高い位置に固定し、お湯をある程度の強い勢いで太く注ぎ込む」のがベストであることが判明したのです。
お湯の勢いが強く、水流も太いと、粉の中で“雪崩”のような現象が発生し、粒子が激しく動きながら混ざることが確認されました。
これはコーヒー粉が一度お湯に押し流され、その後また再び沈んでいくという循環運動を生み出し、結果としてお湯と粉の接触面積が最大化し、その分だけコーヒーの抽出濃度も最大化されるという非常に効率的な抽出法だったのです。
こちらは実験の様子。
一方で、注ぎ口が細すぎると水が途中で途切れて“しずく”状になりやすく、そうなると粉とお湯との混ざりが不十分になってしまいました。
また、極端に低い位置から注ぐ場合も、粉の中に十分な動きが起こらず、抽出効率が落ちるという結果になっています。
環境にも優しいドリップ方法

驚くべきことに、このハンドドリップ方法を用いれば、コーヒー粉の量を最大10%削減しても、同等もしくはそれ以上の“濃さ”を得られる可能性があると研究者は指摘しています。
これを踏まえると、今回の研究の意義は、単においしいコーヒーを淹れるテクニックにとどまりません。
人類は年間数百億キログラムのコーヒー豆を消費していますが、その生産には広大な農地と膨大な水資源が必要であり、環境に多大な負担をかけ続けています。
しかし使用する豆の量を減らしながらも、これまでと同等以上の濃さのコーヒーが抽出できるのであれば、その分だけ環境への負担を減らすことができるのです。
またこのハンドドリップの方法には、新たな道具を用意する必要もありません。
「本当にその仕方で濃厚なコーヒーが淹れられるのか?」
気になった方はぜひ、ご家庭や職場で試してみてください。
参考文献
Coffee too weak? Try this!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1079393?
How to brew the best pour-over coffee, according to science
https://www.popsci.com/science/best-pour-over-coffee/
元論文
Pour-over coffee: Mixing by a water jet impinging on a granular bed with avalanche dynamics
https://doi.org/10.1063/5.0257924
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部