地球から100億光年彼方で発生したブラックホール同士の衝突――。
東京大学、米カリフォルニア工科大学(Caltech)らを中心とする国際研究チームは、この衝突によって発生した重力波を調べた結果、観測史上最大となるブラックホールの合体であることを確認しました。
合体の結果として、なんと太陽質量の225倍もの新たなブラックホールが誕生したと見られています。
目次
- 観測史上最大のブラックホール合体
- 理論の限界を突き破る「怪物」の正体とは
観測史上最大のブラックホール合体
2023年11月23日、米ワシントン州とルイジアナ州にある重力波観測施設「LIGO(ライゴ)」の検出器が、わずか0.1秒の異変を記録しました。
それは2つの超大質量ブラックホールが衝突・合体したことで生じた重力波によるものでした。
この重力波の信号は、他にもイタリアの「Virgo(バーゴ)」、日本の「KAGRA(かぐら)」といった観測施設と共同で解析され、国際研究チームによって驚くべき事実が明らかとなりました。
合体したブラックホールは、それぞれ太陽質量の約100倍と約140倍という並外れた質量を持ち、その衝突によって太陽質量の225倍以上という“怪物級”のブラックホールが誕生したのです。

これまで観測された中で最も大きなブラックホール合体は、2021年に検出されたGW190521で、最終質量は約140太陽質量とされていました。
今回の合体は、その記録を大きく塗り替える史上最大の出来事です。
しかもこの新たなブラックホールは、地球の40万倍の速さで自転していたことも明らかになっています。
理論の限界を突き破る「怪物」の正体とは
この発見がなぜ注目されるのかというと、「恒星の進化で生まれるブラックホールの質量には上限がある」とされてきた通説を打ち破る事例だからです。
一般的にブラックホールは、大質量の恒星が寿命を迎え、核融合が止まって自己崩壊するときに誕生します。
その際に生まれるブラックホールの質量は、太陽の数倍から数十倍程度が限界と考えられてきました。
つまり、100倍を超えるようなブラックホールは、通常の恒星進化モデルでは説明がつかないのです。

この“質量の壁”を越えて存在するブラックホールの正体として、有力視されているのが「階層的合体(ハイアラーキカル・マージ)」です。
これは小さなブラックホール同士が何度も合体を繰り返し、最終的に超大質量のブラックホールが形成されるというシナリオです。
今回の観測も、まさにその証拠の一つと考えられます。
要するに、今回合体した2つのブラックホールもそれぞれ、以前により小さなブラックホール同士が合体して生まれた可能性があるということです。
本研究に参加したカーディフ大学のマーク・ハナム氏も「これは私たちが重力波で観測した中で最も質量の大きいブラックホール連星であり、ブラックホールの形成理論にとって大きな挑戦です」と述べています。
参考文献
LIGO Detects Most Massive Black Hole Merger to Date
https://www.caltech.edu/about/news/ligo-detects-most-massive-black-hole-merger-to-date
Scientists detect biggest ever merger of two massive black holes
https://www.theguardian.com/science/2025/jul/14/scientists-detect-biggest-ever-merger-of-two-massive-black-holes
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部