「外に出かけるより家の中でダラダラしていたい」と感じる人は、きっと少なくないはずです。
しかしそうしたあなたの傾向は、子供の習慣にも影響を与えているかもしれません。
ブラジルのサンパウロ州立大学(UNESP)の研究チームが、「親が運動不足だと子どもまで“座りっぱなし”になりやすい」と報告したのです。
本研究の成果は2025年6月7日付けで『Sports Medicine and Health Science』誌に掲載されました。
目次
- 運動不足は親子で「似る」のか調査
- 親が「座りっぱなし」だと、子供も「座りっぱなし」だと判明
運動不足は親子で「似る」のか調査
現代社会では、運動不足や長時間の座りっぱなしが大人でも子どもでも問題になっています。
座位行動は、肥満や心血管疾患、糖尿病、高血圧、精神的不調など、さまざまな健康リスクと関連していることがこれまで多くの研究で指摘されています。
とくに子どもや若者が1日に何時間も座り続ける生活を送ることは、将来の健康に悪影響を与える可能性が高いと言われています。
そのため国際的にも、座る時間を減らして日常的に運動を増やすことが推奨されています。
しかし、こうした座りすぎや運動不足の傾向は、家庭ごとに大きな差があることも分かっています。
そこで研究チームは、親の遺伝だけでなく、日々の生活スタイルそのものが親子で似てしまう可能性があることに注目しました。
サンパウロ州立大学のチームは、親の運動習慣と子どもの座りっぱなし行動の関連をより客観的かつ詳細に明らかにするため、ブラジル国内で6~17歳の子ども182人と、その母161人、父136人を対象に研究を行いました。
今回の調査では、親子ともに加速度計という小型の活動量センサーを腰に装着し、1週間、24時間体制で座っていた時間と体を動かした時間を自動記録しました。
また、親の運動量は週に150分以上の中強度運動をしているかどうかという国際基準で分類され、十分に運動している親と運動不足の親の2つのグループごとに、親の座位行動と子どもの座位行動がどれだけ関連しているかを統計的に分析しています。
さらに、子どもの年齢や性別、家庭の社会経済的状況、子ども自身の運動量もすべて統計的に調整し、本当に親の運動習慣が子どもの座りっぱなし行動に影響しているのかを明らかにしようとしました。
親が「座りっぱなし」だと、子供も「座りっぱなし」だと判明
調査の結果、親子ともに1日平均8~9時間もの座りっぱなし時間があることが明らかになりました。
そして注目すべきは、運動不足の母親を持つ子どもは、母親と同じように座りっぱなしの時間が長くなる傾向がはっきりと見られたことです。
父親の場合も、運動不足であるほど、子どもの座る時間が増える傾向が確認されています。
つまり、親が動かない習慣を持っていると、子どもも自然と座っている時間が長くなりやすいのです。
これは単に同じ生活リズムを共有しているからではなく、親の生活習慣そのものが子どもの行動に影響を与える、いわゆる“お手本”効果が働いていると考えられます。
一方で、親が十分に運動している場合には、親子の座り時間が特に似通うことはありませんでした。
特に母親の行動が子どもへの影響力が大きいことも示唆されました。
これは、家で一緒に過ごす時間や生活リズムが母子間で共有されやすいことが影響していると考えられます。
親自身が運動や外出に積極的であれば、家族みんなで外に出かける、一緒にスポーツや遊びを楽しむなど、家庭全体の活動的な時間が増えることにつながります。
また、親が座りすぎのリスクや運動の大切さを意識していれば、子どものスクリーンタイムを管理したり、外遊びや運動を勧めたりする行動も増えるでしょう。
反対に、親が何もしなければ、子どもは「家でダラダラ」が普通になりやすいのです。
もちろんこの研究にも限界はあります。
この研究は、ある時点の生活を調べる断面調査であるため、親の行動が直接的に子どもの将来を決めると断言できるわけではありません。
また、研究参加はボランティアだったため、一般家庭すべてに当てはまるとは限りません。
しかし、加速度計を使った客観的なデータ取得や、母親・父親を分けて分析した点などは本研究の大きな強みです。
今後は、さまざまな国や文化、長期的な追跡研究によって、親のライフスタイル変化が子どもの健康習慣にどう影響するかをより詳しく検証していくことが求められます。
家の中でダラダラするのも時には悪くありませんが、親が率先して体を動かすことが、子どもの未来の健康を守る第一歩になるかもしれません。
健康の面でも、「親の手本」は大切なのです。
参考文献
Kids copy inactive parents – but not active ones (so keep moving)
https://newatlas.com/health-wellbeing/sedentary-parents-children-mirror/
Study confirms that inactive parents contribute to sedentary behavior in their children
https://agencia.fapesp.br/study-confirms-that-inactive-parents-contribute-to-sedentary-behavior-in-their-children/55757
元論文
Parent-child association of sedentary behavior according to parental physical activity level: The EPI-FAMILY health-study
https://doi.org/10.1016/j.smhs.2025.06.003
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部