「ウナギ」といえば、水中をくねくね泳ぐ魚で、日本人にもなじみ深い存在です。
そんな中で、ウナギに関する驚きの新事実が明らかになりました。
東京大学大気海洋研究所などの最新研究で、ウナギの一種が自発的に水中から陸上に上がり、昆虫を積極的に捕食することが世界で初めて実験的に証明されたのです。
研究の詳細は2025年10月10日付で科学雑誌『Ecology』に掲載されています。
目次
- ウナギの「陸上狩り」は本当だった
- 魚類の進化と生態に新しい光
ウナギの「陸上狩り」は本当だった
研究のきっかけは、これまでのウナギの生態調査でした。
河川の上流域に生息するウナギの胃の中から、陸に生息する昆虫がたびたび見つかっていたのです。
しかし、それがどうやって捕食されたのかは謎のままでした。
そこで研究グループは今回、奄美大島で採集したオオウナギ10匹を使って、徹底した行動観察実験を行いました。
実験水槽には「水場」と「陸場」を用意し、陸場にコオロギを置きました。
すると全てのウナギが水中から陸上へと自発的に這い上がり、コオロギを少なくとも1回は捕食する様子が観察されたのです。
観察期間中、10匹合わせてなんと3713回もの「上陸行動」が記録され、うち42回で実際に陸上での捕食が成立しました。
興味深いことに、その大半は夜間、部屋の照明を消した暗い時間帯に行われていました。
この実験結果から、オオウナギは“水の外”にも自ら出向いて餌を捕る「両生的な狩り」ができることが実証されたのです。
【こちらは、陸上でカニを捕食するウナギの画像】
さらに、野外調査でも驚きの事実が浮かび上がりました。
奄美大島の3つの河川で、オオウナギ57個体の胃内容物を分析したところ、河川の上流に行くほど陸上生物の割合が高くなる傾向が見つかりました。
つまり、上流など水生の餌が少ない環境では、ウナギは積極的に陸上の昆虫や小動物を狩って生き抜いていることが明らかになったのです。
魚類の進化と生態に新しい光
ウナギの仲間が陸上で獲物を捕る。
これは、実は魚類全体を見渡しても非常に珍しい行動です。
これまで陸上でも餌が捕れる魚は、トビハゼやイールキャット、リードフィッシュなどごくわずかしか知られていませんでした。
特にウナギのような細長い体型の魚で、この行動が実験的に確認されたのは世界で初めてです。
なぜウナギは陸上狩りを身につけたのでしょうか?
本来、ウナギは下流のほうに多く生息していますが、エサが乏しい上流にも進出します。
こうした多様な環境で生き抜くには、柔軟な摂餌戦略が不可欠です。
ウナギは水中だけでなく、陸にいる甲虫やトカゲなども獲物にすることで、生息域を広げることができたと考えられます。
この能力は、ウナギが大きな河川から小さな渓流まで、日本各地のさまざまな川に適応してきた秘密のひとつだったのです。
さらに今回の発見は、水から陸への進化という壮大なテーマにもヒントを与えます。
四足動物(両生類や爬虫類、哺乳類)の祖先は魚類から進化したと考えられていますが、「どんな魚が、どのように陸上の餌を利用し始めたのか」は進化学の大きな謎でした。
ウナギの両生的な狩りのしくみをさらに詳しく調べることで、今後は進化の道筋や生態多様性の理解がいっそう深まるかもしれません。
参考文献
ウナギは陸でも狩りをする ~ 魚類の陸上進出に関する新たな発見 ~
https://www.toho-u.ac.jp/press/2025_index/20251017-1547.html
元論文
Amphibious feeding mode in an anguillid fish
https://doi.org/10.1002/ecy.70202
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部