虚空に浮かぶ瞳のような「天の川銀河でもっとも明るい星」

ESA

まるで宇宙に浮かぶ巨大な瞳のようなこの天体は、天の川銀河でもっとも明るい星の1つ、「りゅうこつ座AG星」です。

画像は2014年と2020年にハッブル宇宙望遠鏡が行った観測と、1994年に同望遠鏡が広域惑星カメラ2(WFPC2)で撮影した観測を合わせて生まれた新しい視点の映像だといいます。

ただ見るだけでも美しい天体写真ですが、ここに映っているものが何を意味しているのか、解説していきましょう。

ちなみにこの星は、2021年にハッブル宇宙望遠鏡31周年記念の対象としても撮影されています。

目次

  • 2面性を持つ星「りゅうこつ座AG星」
  • 爆発と静止を繰り返す二重人格の星

2面性を持つ星「りゅうこつ座AG星」

「りゅうこつ座AG星」は、天の川銀河でもっとも明るい星の1つと言われています。

地球からの距離は約2万光年で、地球から肉眼で観測することはできませんが、質量は太陽の約70倍明るさは太陽の100万倍を超えるとされています。

「りゅうこつ座AG星」は、このとてつもない明るさを数年単位で変動させる、「高光度青色変光星(LBV)」に分類されています。

LBVは非常に珍しい天体で近隣の宇宙で50未満しか見つかっていません。そして、その活動には極端な2面性があります。

変光星の内部では、自身の巨大な重力と内部で高エネルギーを生む核融合の圧力がせめぎ合って、星の崩壊を抑えている状態となっています。

星が自重で収縮すると、内部の圧力が高まって核融合が活発になり明るさが増します。

すると今度は核融合のエネルギーが重力に打ち勝って星が膨張していき、内部の圧力が下がって核融合が穏やかになり暗くなっていきます。

そしてまた重力の方が強くなり、再び星が収縮し始めるのです。

ミラの光度曲線
ミラの光度曲線 / Credit:国立科学博物館,恒星編明るさが変わる星があるって本当ですか?

通常の変光性はこれを数百日という期間で繰り返します。

しかし、LBVはもっと極端な活動の変化を数年の単位で繰り返します。

ほとんど静止したような状態で穏やかに数年を過ごしたかと思うと、数桁も増光して激しい爆発のような噴火を起こします。

このとき太陽の数百万倍という明るさを放つのです。

私たちの太陽は100億年ほどの寿命を持つとされていますが、LBVのような巨大な変光星は非常に短命で数百万年の寿命しか持ちません。

「りゅうこつ座AG星」の予想寿命は500万年から600万年ほどだろうと考えられています。

さて、そんなこの星の画像を見て、まず誰もが気になるのが、まるで瞳のように見える不思議な形状でしょう。

なぜ、この天体は瞳の中にある虹彩と瞳孔のような形になっているのでしょうか?

爆発と静止を繰り返す二重人格の星

「りゅうこつ座AG星」は、自身が崩壊しそうなほどエネルギーを溜め込んだ際に、激しい爆発を起こして溜め込んだものを放出します

そして、物質を放出して落ち着くと、また徐々に収縮していきます。

この爆発の大きさには変動があり、特に巨大な爆発が起きた場合、放出された物質が星の周囲に星雲を作り出します。

このような巨大な爆発は、LBVという星の寿命の中で、数回発生すると考えられています。

現在のAG星は半静止状態で、比較的穏やかにしていますが、それでも強力な恒星風(荷電粒子の流れ)を放出するような爆発は繰り返しています。

これが古代の巨大な爆発で作り出された星雲を外側へ押し出すように動かしています。

虹彩のように見えている星雲は約1万年前に形成されたと考えられていて、これが恒星風に押し出されて現在見られる星の周りの空洞を作り出しています。

これまでの観測画像を合わせた「りゅうこつ座AG星」の画像。赤はイオン化したガス。青は塵の残骸を示している。
これまでの観測画像を合わせた「りゅうこつ座AG星」の画像。赤はイオン化したガス。青は塵の残骸を示している。 / Credit:ESA/Hubble and NASA, A. Nota, C. Britt

この画像では、赤と青に色分けされた瞳の虹彩のような領域が特徴的ですが、これが星雲と恒星風を示しています

画像の赤色が主に星から放出されたイオン化された水素と窒素であり、これが恒星風です。

そして青色に光っているのが、星に照らされた塵の塊です。

そのため、よく見るとおたまじゃくしのような形で、星の方向から来る放射を遮っているようのが分かると思います。

画像の左上では、赤い煙のようなものが外側に吹き出しているように見えます。

これは恒星風が、星雲の構成物が薄い領域を通り抜けて拡散した場所を示しています。

恒星風は毎秒200kmの速度で吹いていて、その外側の星雲にぶつかってこのガスと塵の雲を毎秒70kmで押し広げています。

形成された星雲は現在、約5光年の幅があり、これは地球にもっとも近い星といわれるケンタウルス座アルファ星までの距離と同じです。

あまりにダイナミックで、なんだかわけがわからなくなってきますね。

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参考文献

A Closer Look at Hubble’s 31st Anniversary Snapshot
https://esahubble.org/images/potw2137c/

Hubble Has Captured The Startling ‘Eye’ of a Massive Stellar Explosion
https://www.sciencealert.com/hubble-s-spectacular-new-image-looks-like-an-eye-in-space

ライター

海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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