”若者の酒離れ”ではなく”飲まない文化”の定着「Z世代が変化を牽引」

お酒は「つきあい」なのか、それとも「嗜好」なのか。

日本でも「若者の酒離れ」という言葉を耳にしますが、これは日本だけに見られる現象ではなく、世界全体で広がっている流れです。

オーストラリアのフリンダース大学(Flinders University)の国立依存症教育訓練センター(National Centre for Education and Training on Addiction/NCETA)と医学・公衆衛生学部の共同研究で、2001年から実施されている全国縦断調査「HILDA調査」の2万3368人以上のデータを調査した結果、Z世代はベビーブーマー世代に比べて「飲まない」選択が非常に多く、週あたりの総量も少ないという、はっきりした世代差が示されました。

こうした若者の酒離れという話については、「俺も若い頃はそんなに飲まなかったよ、年取ったらみんな飲むようになるんだよ」と考えている人も多いかもしれません。

しかし今回の研究は、同じ世代を20年以上追跡調査した結果を報告しており、ここで示された傾向は若い人が飲まないということではなく、新しい世代は年齢が上がっても一貫して飲まないという、新たな世代の文化や価値観の変化を示唆しています。

この研究の詳細は、2025年10月付けで科学雑誌『Addiction』に掲載されています。

目次

  • 世代で変わる文化的価値観
  • 「飲まないことが当たり前」酒文化が変わり始めている

世代で変わる文化的価値観

居酒屋でジュースを注文する若者が珍しくなくなったと感じる人は多いのではないでしょうか。

実際、オーストラリアでも若い世代がアルコールから距離を置く動きが報告され、Z世代は週あたりの総飲酒量が少なく、禁酒を選ぶ人も増えていることが示されています。

背景として、アルコールは200以上の病気と関連し、短期的な事故やケガのリスクも高めることが知られています。

オーストラリアのガイドラインでは、死亡リスクを抑えるために「週10ドリンク、1日4ドリンクを超えない」ことが推奨されています。(ここでいう1ドリンク(standard drink)は、純アルコール量で換算した単位でグラスビール1杯分ほどのアルコール量を指す)

しかし、これまでの研究は「一時的に取得したデータ」を比較する横断研究が中心で、時間の変化を追えていませんでした

若者が飲まないのは年齢のせいなのか、それとも世代固有の文化が変わったのかを切り分けるには、同じ人を長く追う必要があります。

今回の研究は、この点を補うためにオーストラリアの全国縦断調査「HILDA調査」を活用し、年齢の影響と世代の違いを同時に検証しました。

この調査は2001年から毎年行われており、研究では23年分のデータが解析されました。

研究では18歳以上で少なくとも調査に5回以上回答した2万3368人を対象としており、合計32万4012件のデータが含まれます。

同じ参加者を長期間追いかけることで、酒離れが特定の年齢に起きる問題なのか、世代間で起きている文化的変化と言えるのかを分けて評価できます。

世代区分は米国の調査機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)の定義に従い、サイレント世代、ベビーブーマー、X世代、ミレニアル、Z世代に分類しました。

ちなみにそれぞれの世代は次のように定義されています。

サイレント世代(Silent Generation)

年齢:約80〜97歳(1928〜1945年生まれ)
戦争や戦後の混乱期を経験し、節約・勤勉・秩序を重んじる世代。
沈黙とは政治的に声を上げにくかった世代という意味。


ベビーブーマー世代(Baby Boomers)

年齢:約61〜79歳(1946〜1964年生まれ)
戦後の経済成長と人口増加の時代に育ち、努力すれば報われるという価値観を持つ世代。
消費意欲が高く、仕事中心の生活やマイホーム志向が強い。


X世代(Generation X)

年齢:約45〜60歳(1965〜1980年生まれ)
高度経済成長の終盤から情報化社会の始まりを体験した世代。
アナログとデジタルの両方に慣れており、柔軟で現実的な考え方をする。


ミレニアル世代(Millennials)

年齢:約29〜44歳(1981〜1996年生まれ)
インターネットと携帯電話の普及期に育ち、SNS文化の形成を体験した世代。
多様性や環境問題への意識が高く、自分らしい生き方や心の豊かさを重視。


Z世代(Generation Z)

年齢:約13〜28歳(1997〜2012年生まれ)
スマートフォンとSNSが当たり前の社会で育ったデジタルネイティブ世代。
健康やメンタルケアを重視し、無理をせず自分のペースで生きることを大切にする。

出生年で区切る理由は、各世代が同じ社会体験(景気後退やパンデミックなど)に影響されやすいからです。

飲酒行動の評価は三つの指標で行いました。

一つ目は「飲まないかどうか(禁酒)」

二つ目は「1回あたりの飲酒量」(1~2ドリンク、3~4ドリンク…という数値で調査)

三つ目は「週あたりの総飲酒量」(1回の飲酒量と飲む頻度から週のドリンク数を推定)

この変換はHILDAの飲酒データを数量化する際に広く用いられる方法に準拠しています。

比較の基準(参照群)は標本数の多いベビーブーマー世代とし、各世代の禁酒のしやすさ、1回量や週量の多さを推定しました。

「飲まないことが当たり前」酒文化が変わり始めている

結果は明快でした。

Z世代はベビーブーマー世代に比べて禁酒を選びやすい傾向がとても強く、統計的な指標では「約17倍」でした。

ミレニアル世代でも約10倍X世代でも約3倍という結果で、若い世代ほど「飲まない」選択が増えていたのです。

「飲む人」だけに絞っても、世代差ははっきりしました。

週あたりの総飲酒量は、Z世代とミレニアル世代で少なく、とくにZ世代はベビーブーマー世代より飲酒量は43%少ないという結果でした。

一方、X世代とベビーブーマーの週量は統計的に大きな差がありませんでした。

興味深いのは「1回あたりの飲酒量」です。

ミレニアルとX世代は、総合的な飲酒量はベビーブーマーより少ないものの、一度の飲酒量自体はベビーブーマーより多い傾向が見られたのです。

これは普段は飲まないが、イベントや飲み会などの付き合いで一気に飲むということを示していると考えられます。

対してベビーブーマーは、一度の飲酒量はミレニアルとX世代より控えめですが、頻度が高くそのため総合的な飲酒量も他の世代を上回っていました。

これはベビーブーマーは、夕食に毎回飲む、イベントなどがなくても仕事の後に飲みに行くなどの頻度が高いことを示しています。

そして、Z世代はミレニアルとX世代で見られた一度の飲酒量は多いという傾向も失われていました。この世代では一度の飲酒量も頻度も低下していたのです。

これはミレニアルとX世代などに見られた、イベントや飲み会などの付き合いでは飲むという行動も失われたことを示すと考えられます。

これは、若い世代のなかでもZ世代がお酒に対する文化的な態度を切り替えている可能性を示します。

また調査データではミレニアム以前の世代では、20〜30代の若い時期にもっとも多く飲み、年齢を重ねるにつれて徐々に減っていく傾向が見られました。

40代で一旦飲酒量が上がるという傾向は見られますが、Z世代は、同じ若い時期でも他の世代よりすでに飲酒量が少なく、出発点から「飲まない」世代として際立っています。

そのため、今後年齢が上がっても飲まない行動が一貫して続く可能性が高いと考えられます。

研究チームは、このような結果になった背景としていくつかの社会的変化を挙げています。

たとえば、お酒を飲まないことが“普通”になりつつあり同調圧力が弱まっていること、生活コストの上昇で「お酒にお金をかけない」節約志向が強まっていること、デジタル機器中心の余暇が広がったことで身体的リスクを伴う娯楽を避けやすくなっていることなどです。

もちろん、本研究には限界もあります。調査の回答は自己申告であり、実際の量より少なめに申告される場合があります。また、設問の選択肢の上限があるため、大量に飲む人の一部は実態より小さく見積もられる可能性があります。

それでも長期間にわたって同じ人を追いかけたことで、この研究は年齢による変化と世代の違いを分けて見ることができました。

これは「付き合いで飲む」という文化が失われつつあり、Z世代を中心として今後一貫して人類は飲まない方向に進んでいく可能性を示唆しています。

酒造業や飲食業にとっては頭の痛い問題になるかもしれませんが、若い世代の節酒傾向は、がんや肝疾患、事故のリスク低下など、公衆衛生面では恩恵につながる可能性があります。

「飲まない自由」を新しいスタンダードにしていくことが、世代を超えて健康寿命の延伸に寄与していくのかもしれません。

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参考文献

Drinking through the generations

Drinking through the generations
https://news.flinders.edu.au/blog/2025/10/07/drinking-through-the-generations/

元論文

OK Boomer: A longitudinal analysis unravelling generational cohort differences in alcohol consumption among Australians
https://doi.org/10.1111/add.70201

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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