自己認識力が低い人ほど道徳的な政治問題に対してより強い脳反応を示す

心理学

「“この問題に関しては、絶対に自分のほうが正しい!”――そんな強い確信を抱いた瞬間はありませんか?

アメリカのシカゴ大学(UChicago)で行われた研究によって、政治や社会の道徳的な論点について心から「間違いなく正しい」と信じているとき、私たちの脳が想像以上に活発に反応している可能性が示されました。

しかも興味深いのは、そうした“脳のヒートアップ”が、自分の考えを客観視する力――いわゆる自己認識力(メタ認知)が低い人ほど、より際立ってしまうということ。

なぜ低い自己認識力の持ち主ほど道徳的な政治問題において、強烈に反応してしまうのでしょうか?

研究内容の詳細は『Cognitive, Affective, & Behavioral Neuroscience』にて発表されました。

目次

  • 自己認識力の重要性
  • 自己認識力が低いと政治問題で脳が燃え上がりやすくなる
  • まとめ:自己認識力がもたらす柔軟性

自己認識力の重要性

自己認識力が低い人ほど道徳的な政治問題に対してより強い脳反応を示す
自己認識力が低い人ほど道徳的な政治問題に対してより強い脳反応を示す / Credit:Canva

道徳的に「これだけは許せない」「これは絶対に正しい」という強い思いは、驚くほど大きく社会を動かしてきました。

公民権運動のように、社会の前進を後押しする力になる場合もあります。しかし、宗教戦争や暴動のように、まるで燃料が過剰に注がれて制御しきれなくなるかのように、激しい対立を引き起こす面もあるのです。

ここで鍵となるのが、自分自身の思考や信念を客観視できる自己認識力(メタ認知)です。

たとえば、友人との口論で「絶対に私が正しい!」と譲らないケースを想像してください。

自分の正しさを強く確信するあまり、相手の話を聞かなくなることがあります。

これは“問題意識”だけが強まっている一方で、“状況を冷静に見直す仕組み”が働きにくい状態といえます。

もしその仕組みが完全に停止していれば、突き進むばかりで衝突が大きくなりがちです。

会議やディスカッションでも同様で、「相手の意見をきちんと理解しているか」「自分の発言に偏りはないか」を振り返るには、自己認識力が欠かせません。

実際、心理学の研究では、自分の判断がどれほど正確かを冷静に捉えられる人ほど、新しい情報や矛盾する意見に対しても受容的になりやすいと報告されています。

逆に、自己認識力が低い人ほど「自分は間違っていない」と強く信じて他の情報をシャットアウトし、思い込みによる暴走を起こしやすい傾向があります。

さらに興味深いのは、自己認識力と知能(IQ)のあいだにも、ある程度の相関がみられると示唆する研究が存在することです。

研究によって値にはばらつきがあるものの、メタ認知の正確さ(自分の判断や認知の正否を見極める力)とIQには、平均すると中程度(たとえば相関係数が0.3から0.4程度)のプラスの関連が見られると報告されています。

もしここが弱まれば、「この道徳的確信は本当に正しいのか?」と立ち止まるタイミングを失いやすくなるかもしれません。

実際、SNSでは「道徳的・感情的な単語」を含む投稿が拡散されやすいと報告された例があります。

私たちが「これは間違いなく正しい!」と思う話題ほど、周囲に共有したくなる心理が働くのかもしれません。

その結果、同じ価値観をもつ人ばかりが集まる“情報バブル”に陥り、違う考えとの接点を失ってしまうリスクも高まります。

ある研究では宗教的熱意が高い人ほど道徳的確信が強まる傾向が示唆され、そうした人々が「自分は絶対に正しい」と思い込むと、排他的な態度になりやすい可能性も指摘されています。

強い道徳的確信の“光と影”を理解するためには、信念の強弱だけでなく、その背後にある脳の働きや自己認識力の関係に注目する必要があります。

そこで今回の研究では、社会・政治問題に対して「これは正しい!」と強く感じたときに脳で何が起きるのか、さらに自己認識力が高いか低いかでどう変わるのかを詳しく探ることが目指されました。

自己認識力が低いと政治問題で脳が燃え上がりやすくなる

自己認識力が低い人ほど道徳的な政治問題に対してより強い脳反応を示す
自己認識力が低い人ほど道徳的な政治問題に対してより強い脳反応を示す / Credit:Canva

今回の実験では、まず参加者に多数の社会・政治トピックをオンラインで提示し、単なる「好き・嫌い」を問うのではなく「どれだけ道徳的に正しい(あるいは許せない)と思うか」という“道徳的確信”の度合いまで回答してもらいました。

また別のタスクでは、「自分の判断にどれだけ自信があるか」を測ることで、自己認識力(メタ認知)の高低を数値化しています。

次に、参加者はfMRI装置の中で「デモや抗議行動の写真」を眺め、写真左・右のグループのうちどちらをより支持するかを数秒以内に選択しました。

たとえば左が「環境保護法案に賛成」、右が「死刑制度に反対」といった具合に、時には全く異なるテーマ同士が並ぶこともあります。

このときの脳活動を計測することで、「道徳的確信」「支持・不支持」「自己認識力」が絡み合う瞬間を捉えるわけです。

結果として、道徳的確信が強いトピックほど判断が早く下される傾向が確認されました。

「これは絶対に正しい!」「絶対に許せない!」と思うほど、ほとんど迷わず決断してしまうようです。

さらにfMRI解析では、前部島(aINS)や前帯状皮質(ACC)など“感情的な重要度”の検知に関わる領域に加えて、外側前頭前野(lPFC)など“認知的制御”に関わる部分まで活性化しているのがわかりました。

これにより、「これは大事だ!」と強く反応するだけでなく、「それをどう行動に移すか」の面でも脳がフル稼働しているとみられます。

特に注目すべきは、自己認識力(メタ認知)が低い参加者ほど、道徳的確信に関連する脳の反応がいっそう強烈になるという点です。

価値評価に関わるvmPFC(腹内側前頭前野)や報酬系の活動が高まり、「自分の意見は正しい」という感覚が、まるで勝利の報酬のように強化される可能性が示唆されました。

つまり、自己認識力の低さが、「自分が正しい」という確信に拍車をかけ、脳内の“盛り上がり”を増幅させているわけです。

まとめ:自己認識力がもたらす柔軟性

自己認識力が低い人ほど道徳的な政治問題に対してより強い脳反応を示す
自己認識力が低い人ほど道徳的な政治問題に対してより強い脳反応を示す / Credit:Canva

今回の研究が示唆するのは、私たちが「これは間違いなく正しい」と感じる道徳的確信には、主に二つの力が同時に働いているということです。

一つめは、「これは絶対に許せない」「これは何が何でも守るべきだ」といった強い感情的インパクト――脳が“重大事だ”と警鐘を鳴らすシステムが稼働する部分。

たとえるなら、火事のサイレンが一気に鳴り渡り、「これだけは最優先だ!」と全身を奮い立たせるような感覚です。

二つめは、同時に走る論理的なプロセス――「なぜこれは許されないのか」「どうしてこれが正しいのか」を自分の中で整理する認知の働きです。

いわば、燃え上がるエネルギー(感情)と、そのエネルギーに理屈を与える制御装置(認知)がタッグを組んで、「これは絶対だ」という確信を生み出しているわけです。

ところが、この“道徳エンジン”を安全運転するためにはブレーキにあたる仕組みが必要となります。

それこそが自分の思考の正しさを点検する「自己認識力(メタ認知)」です。

例えば何かに強い正義感を持ったときでも、「ちょっと待てよ、どこかに思い込みや誤解がないだろうか」「相手には何か別の正義があるんじゃないか」と自分の信念を冷静に振り返る能力があれば、過剰な興奮に流されることを防ぎやすくなります。

一方で、もし自己認識力が弱いと、脳は「自分こそ正しい!」という思い込みをまるで報酬のように扱い、“アクセル全開”で突き進みがちです。

そうなると、他者の声に耳を貸さず、「これが正義なのだから、譲る必要などない」と頑固な態度を取りやすくなってしまうでしょう。

今回の研究がおもしろいのは、「道徳的確信」「感情の強さ」「論理的制御」といった要素に、さらに自己認識力が加わったとき、脳内の仕組みがどのように変化するかを具体的に示した点です。

メタ認知が高い人は、たとえ「これは絶対に正しい」と感じても、その“サイレン”に従いつつ、必要なら音量を下げる術を心得ています。

一方でメタ認知が低い人は、サイレンの音量を下げるどころか、どんどん大きくしてしまう傾向があるのかもしれません。

実際、脳の報酬回路まで一緒に盛り上がってしまうので、「自分が正しい」という状態それ自体が、“快感”や“達成感”に似た満足を与え、ますます意見を覆すのが難しくなる可能性を指摘しています。

こうした仕組みは、社会のさまざまな問題の背景にも関係していると考えられます。

たとえば、ネット上で激しい議論が起きるとき、「あの人たちはいったいなぜあれほど頑固なのか?」と思うことはないでしょうか。

相手にモラルがないわけではなく、むしろ強い道徳的確信があるゆえに、「自分が正しい」というサイレンが止まらなくなっているのかもしれません。

そこに自己認識力というブレーキが備わっていなければ、対立は一気にエスカレートしてしまうわけです。

正義感や道徳心は、本来、社会を前に進める大切なエンジンです。

ただ、そのエンジンがいくらパワフルでも、ちゃんと停止やスピード調整ができないと危険になるのは当たり前のこと。

つまり、自分の正義を声高に叫ぶだけではなく、それを客観的に見直す冷静さがあってこそ、私たちは多様な意見と折り合いをつけつつ前へ進めるのかもしれません。

これは、政治対立の場でも、SNSでの口論でも、さらには日常のちょっとした意見の食い違いでも変わらない大切なポイントと言えるでしょう。

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元論文

Moral conviction interacts with metacognitive ability in modulating neural activity during sociopolitical decision-making
https://link.springer.com/article/10.3758/s13415-024-01243-3

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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